2014年9月19日 (金)

かまくら伝説 最終回

前回までのあらすじ

 父の郷里へ来た慎君は、横手のかまくら祭りで不思議な少年に会う。その少年の手引きで、慎君は900年前の少年、道太と同化する。道太は源義家の家来で,負傷して雪のほこらに倒れ込み、しずという里の娘に助けられる。しかしそのしずは、いくさで殺された娘の霊魂だった。義家軍は雪のほこらを作って陣とし、道太は見張りのため、そのほこらをめぐって歩く。

      かまくらと鎌倉

 気がつくと、慎君は大きなカシの木下に立っていました。隣には蓑を被ったあの不思議な少年がいます。
「慎君『よんじゃめぐり』の意味はわかっただろう?」
「うん。『用心めぐり』だよね」
「『かまくら』の意味はどうだい?」
「それは分からない」
「分からないかなあ。さっきほこらの中にいたのは、源氏の武将たちだよね。その源氏は後に鎌倉を本拠地にしたのさ。だから雪のほこらを『かまくら』と言うようになったのさ」
「ふうん、そうだったの、ところで君は・・・」
「僕かい、源氏にゆかりの者とでも言っておこうか。そんなことより、君はお父さんのところへ帰らなくてはいけない」
 はげしい雪の中で、慎君の体は、少し浮き上がったように思いました。そのとき、雪のほこらをまわる道太が見えました。そして、不思議な少年が、道太の中に吸い込まれていくのを、見たように思いました。

 雪が降ります。あたり一面を白いもやにして、雪が降りつのります。
「やあ、遅くなってごめんよ」
 不意に、お父さんの声がします。振り返ると、お父さんがかまくらから出てきたところです。
「いやあ、子どもたちに、もう一杯どうぞなんていわれて、つい甘酒を二杯も飲んじゃった。待ちどうしかっただろう」
「お父さんごめんなさい。長い間いなくなったりして・・・」
「え?」
「僕は道太の中に入っていたんだ」
「ドウタ? なんだい、ドウタって?」
「雪の蓑を着た子どもが来てね、それで・・・」
「雪の蓑を着た子どもだって? 昔はそういう子どももいたけれど、今はいないよ。まるで夢を見ているようじゃないか」
 慎君は辺りを見回しました。まわりの景色も人も、慎君が不思議な少年に会う前と同じです。本当に夢を見ていたのでしょうか? それも、お父さんがたった二杯の甘酒を飲む間に・・・」
 慎君が不思議に思っていると、遠くから歌声が聞こえてきます。道太の声です。慎君は目を輝かせて言いました。
「お父さん、ほら、道太がうたっているよ」
「歌? 聞こえないねえ」
 お父さんは首を傾けて言いました。でも、慎君には、かすかに、しかしはっきりと、道太の歌が聞こえるのです。

    用心めぐり
    用心めぐり
    寒鍋かけろ
    辛酒かけるな
    甘酒かけろ
    餅あぶれ
    ほーい  ほーい

 しんしんと雪が降ります。その雪の下で、横手市はかまくら祭りのにぎわいです。

                           終



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2014年9月18日 (木)

かまくら伝説 (第8回)

前回までのあらすじ

 父の郷里へ来た慎君は、横手のかまくら祭りで不思議な少年に会い、その手引きで900年前の少年、道太に同化する。道太は源義家の家来である。負傷して、しずという里の娘に助けられたが、そのしずは、いくさで殺された亡霊だったらしい。

      雪の陣(2)

 しきりに喉が渇く。道太は足元の雪を一掴み、口の中に押し込んだ。
 降りしきる雪の向こうに、しずの姿が浮かび上がる。しずのまわりの雪が、茜色に変わり、赤や黄色や紫に変わった。蛍だ! 降る雪がすべて蛍に変わった。
「あは、うふ、ふふふふ」
 初めてしずにあったときの明るい声がして、しずが蛍を追っている。
「しず・・・」
 思わず道太が呼びかけると、
「私はもっと痛かったの、私は直らなかったの」
 という声がして、しずも、蛍も消えてしまった。
 道太は我に帰って、もう一度雪を飲み込んだ。何度雪を飲み込んでも、喉の渇きは取れない。道太は初めて、心の底からいくさを憎んだ。

 雪のほこらからは、甘酒を酌み交わす、武将たちのざわめきが聞こえてくる。道太は、雪のほこらをまわり始めた。しずの幻を振り払うように、道太はうたう。

 用心めぐり
 用心めぐり
 寒鍋かけろ
 辛酒かけるな
 甘酒かけろ
 餅あぶれ
 ほーい ほーい

 雪は降り続いている。夜は更ける。雪のほこらのざわめきも消え、武将たちは眠りに落ちた。道太の歌声だけが、何時までも、悲しげに響いていた。

                         続く

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2014年9月17日 (水)

マンションの庭の手入れ

017

 絵は阿比奈公園です。

マンションの庭の清掃

 正式の清掃日ではなく、今年の役員と、有志。私は暇があったので、有志ということで、ボランティアですな。そのくせ、一番重労働をやっちゃった。なんという名前か知らないけれど、エンジンで動く生垣を刈ったりするときの、重い道具を使いました。頑張って最後までやったけれど、終わりごろは、生垣の上に持ち上げるのだって、やっとだよ。

ぼんくら俳句

(入間川で)
      土手の上走る人下歩く人
      すずろなる芙蓉を愛でり荒凡夫
      中洲の鷺抜き足で歩く一歩二歩
      手を繋ぎ来る老夫婦マンジュシャゲ
      短パンに白い脚出す娘のまぶし
      肌荒れる地べたにこんなに家建てて
                       無季句です
      この一杯あとは寝るだけ秋の酒
                       ではお休みなさい


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かまくら伝説 第8回

前回までのあらすじ

 父の郷里に来た慎君は、横手のかまくら祭りで、不思議な少年に会い、その導きで900年前の道太という少年に同化する。道太は源義家と清原家衡との戦いで負傷し、雪原の雪のほこらに倒れ込む。そこで、里の娘しずの手当てを受け、回復する。道太が雪のほこらを出て振り返ると、雪のほこらは消えている。

      雪の陣

 雪が降る。昨日も、今日もしんしんと雪は降り続く。
 義家軍は陣を立て直さなければならない。武将たちはばらばらになって、あちこちの農家の納屋などに潜んでいる。道太は連絡係だ。いくさに嫌気がさした武将には、父の道行きが説得に行った。だが義家はこんな雪の中で、いったいどんな陣を作ろうというのだろうか。
 義家は武将たちに、雪のほこらを作らせた。雪を積み上げて横から穴を掘り3,4人が中に座ったり、横になったり出来るほどの雪の家を作るのだ。中に藁を敷き、入り口を筵で塞げば、中は思ったよりも暖かい。道太が雪のほこらで過ごしたことを、父の道行きに話したので、道行が思いついたに違いない。雪原にいくつもの雪のほこらを作って、義家の陣ができあがった。
 雪の陣が完成した晩、義家は武将たちに、餅と甘酒を配り、遅れの正月を祝った。武将たちは、雪の下から掘り出した石や土で、ほこらの中に囲炉裏を作っている。その囲炉裏で餅を焼き甘酒を温めて暖を取るのだ。武将たちの弓や槍は、ほこらの外の雪に差して立ててあった。
 道太は雪の陣の見張りをするようにと命じられた。
 一人の武将が言った。
「見張りの間は、歌をうたえ。歌が聞こえている間は、何事もなく見張っていると分かる。歌が途切れたら、何かが起こったのだとわかる。だから、見張りの間は歌をうたえ」
 道太が見回りを始めると、父の道行がやってきて声をかけた。
「道太、お前が傷の手当てを受けたという娘のことだが、娘の霊魂だったかもしれないね」
「霊魂? それはなぜですか」
「生きている娘だとしたら、不思議すぎるじゃないか。ほこらに入るときは、声だけ聞こえて姿は見えなかったのだろう。まわりに家がないのに、暖かい芋粥を運んできたと言うのも変だ。それに、ほこらを出たら、何もかも消えてしまったというじゃないか。結局お前は、ほこらの中でしか娘を見ていないのだ。しかも、本当は見えないほこらだ」
「・・・・」
「霊魂だったのだよ。この前のいくさでは、裏山の辺りで討たれた娘がいるそうだ。裏山の麓まで逃げたものがいて、誰か人影が見えたので、、敵かと思って槍で突いたそうだ。ところが、倒れたのは女の子だったらしい。それが、お前の言っているしずという娘だったのではないか」
「・・・・」
 道太は石を飲み込んだような重い気持ちになった。そういえば、思い当たることばかりだ。雪のほこらでのしずと、蛍を捕まえていたしずとでは、まるで別人のようだった。妙に大人びていたし、顔の色も透き通るほど白かった。
 道太は、体中の力が抜けていくような気がした。
「そんなに気を落とすな。いくさというものは、まわりの人間を巻き込むこともあるものさ。あまり考えずに、今は見張りをやりなさい。それがお前の仕事だ」

                          続く 

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2014年9月16日 (火)

かまくら伝説 第7回

前回までのあらすじ

 父の郷里へ来た慎君は、かまくら見物に出かけ、不思議な少年に会う。その少年の導きで、慎君は900年前の少年、道太と同化する。道太は源義家軍に属し、清原家衡軍と戦っている。正月を迎える2,3日前、義家軍の陣は破られ、皆ちりじりに逃げる。道太も足に怪我を負って、目の前に現れた雪のほこらに入り、敷き藁の上に倒れ込み、深い眠りに落ちる。

     雪のほこら(2)

 どれほどの時間がたったのだろうか。太ももの痛さで道太は目を覚ました。誰かが傷の手当をしている。どこかで見たことのある少女だ。
「しず・・・・しずだね。助けてくれたのか?」
 しずは、透き通るほど白い顔をしていた。道太の傷口を洗い、貝殻に入れた薬を塗り、布切れで包帯をした。そして、つぶやくように言う。
「痛いでしょう? 痛いでしょうね・・・。私はもっと痛かったの」
 傷の手当を終えると、しずは一度外へ出て、すぐに、木の椀を抱えて戻ってきた。そして、黙ってその椀を道太の前に置いた。暖かい芋粥だった。道太はその芋粥を食べると、再び眠りに落ちていった。

 
「今度の戦いで義家軍はさんざんにやられたらしい。これでいくさが終るといいね」
「いや、終らないだろう。義家様はご無事らしい。清原軍の疲れ切っていて追い討ちする力はないらしい。」
 外の話し声で、道太は目を覚ました。
「それではいったい、このいくさはどうなるのかね」
「そうさねえ。もとはといえば、義家様が清原氏の内輪もめに手を出したからだが・・・」
「義家様は、ずっと前に、清原氏に助けてもらったことがあるんだってね」
「そうなんだ。義家様の父、源頼義様と安倍氏のいくさで、清原氏に助けてもらったんだ。今度は、その清原氏を討とうというのだからね。清原軍では、義家様のことを、恩知らずといっているそうだよ」
 道太はこれまで、義家様のすることを疑問を持ったことはなかった。常に正しいものと思っていた。義家様を恩知らずという人がいるなど、考えられないことだった。
「それにしても、こんないくさは早く終ってもらいたいねえ」
「まったくだ。この前など、敵と間違えられて殺された娘がいるんだ」
「殺したのは義家軍かい、それとも清原軍・・・」
「それは分からない。だけど、どっちにしても、私たちには同じことさ」
「まったくだ」
「こんなところで立ち話をしていると、私たちもどちらかの敵と思われるかもしれない、早く帰ろうや」
「そうだね。くわばらくわばら」
 それっきり、外は静かになった。

 しずがまた芋粥を持ってきた。それを食べると、不思議に脚の痛みが引き、道太は急に元気が出た。疲れもすっかり取れている。
「道太様はもう歩けますね。でも、私は直らなかったの」
「え? しずも怪我をしたのか?」
 しずはそれには答えず、雪よりも白い顔を伏せた。
 しずが出て行ったあとで、道太も外へ出てみた。外は静かに雪が降っている。近くにしずの家があるはずだと思って見回したが、それらしい家は無く、あたり一面、白一色の雪原である。不思議に思って振り返ると、さっきまで入っていた雪のほこらが消えているではないか。まるでキツネにつままれたようで、道太はしばらく、ぽかんとその場に立ちつくした。

                     続く

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2014年9月13日 (土)

かまくら伝説 その5

かまくら伝説 第5回

全開までのあらすじ

 父と共に鎌倉見物に来ていた慎君は、藁のみのや藁靴を身につけた不思議な少年に会う。そして雪原のカシの木の下で、900年前に源義家に同道した原島道太の心の中に吸い込まれていく。それから半年、今は夏である。道太は小川に足をつけて、寝ている。

       蛍の少女(2)

「あは、うふ、ふっふっふ」
 嬉しくて仕方がないというような少女の笑い声で、道太は目を覚ました。見ると、川の向こう岸で7,8歳くらいの女の子が、夕焼け雲を追いかけている。いや、夕焼け雲と思ったのは、蛍である。あたり一面が蛍の海だ。少女は、蛍を捕まえては、竹のかごに入れている。貧しい身なりだが、目のきれいな、可愛い少女だ。そばに、姉らしい人もいる。
 

 道太はゆっくりと体を起こした。
「あっ」
 道太に気づいて姉は一歩下がった。
「あっ」
 道太に気づいて、妹は一歩前へ出た。
「こんばんは」
 道太が声をかけると、妹は川のふちまで駆けてきて、道太がしているように岸に座り、流れに足を入れた。姉が困った顔をしているのには気にもとめず、道太と顔を見合わせると、にっこり笑う。道太もつられて笑い、少女に話しかけた。
「どこに住んでいるの?」
「うん、あっち」
 少女は川上の方を指さした。
「名前は?」
「あのね、しず・・・しずです」
「しずか、いい名前だ」
 大人ならきっとそういうだろうと思って、道太は名前をほめた。
「うん、いい名前でしょう」
 少女が答える。姉が少女のところまで来て、道太にお辞儀をした。そして、
「さあ、帰りましょう」
 と、しずをうながした。しずはそれにかまわず、
「お武家様はなんていうの?」
 と聞く。
「原島道太だよ」
「ふうん、は、ら、し、ま、どう、た、なの」
「原島道太様といいなさい」
 姉がしずの手を引いて立ち上がらせた。
「さよなら」
 しずがいった。
「さよなら」
 道太もいった。しずの姉がもう一度道太に、お辞儀をし、しずの手を引いて帰って行った。蛍の海の中でしずが振り返り、
「原島道太様」
 といって手を振る。道太は立ち上がって、二人を見送った。

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2014年9月11日 (木)

かまくら伝説 その4

かまくら伝説 その4

前回までのあらすじ

 慎君は父と共に、父の郷里である秋田の田舎の村にやってきた。村で「よんじゃめぐり」と言う子どもの行事を見た後、横手市の鎌倉見物にやってきた。そこで不思議な少年に会い、900年前の道太という少年に吸い込まれていく。

       蛍の少女(1)

 いくさはもう何年も続いている。源義家が東北地方の長官として京都からやってきたとき、原島道太は父の道行きと共に、義家に従ってやってきたのである。そのころ8歳だった道太も今は12歳になっていた。いくさは義家がこの地に着いてすぐに始まった。道太は、京都のことはもう思い出すこともない。生まれたときからずうっといくさをしているような気さえする。
 清原家衡軍は強力だった。何年も戦って、義家は家衡のたてこもる沼柵(ヌマノキ)を落としたが、家衡は落ちのびて、金沢柵(カナザワノキ)に入っている。義家軍は家衡を追って雪原を行進した。慎君がカシの木の下で道太を見かけたのはそのときのことだ。

 慎君が道太の心に入って半年が過ぎた。今はもう夏である。あいかわらず家衡は、太い柱をすき間なく並べて城のようにした金沢柵に立てこもっている。義家軍はどうしても金沢柵を落とすことが出来ないのだ。

 ここ何日か、うだるような暑さが続いて、両軍に目立った動きはない。
 ある日の夕方、道太は陣の裏山のほうに行ってみた。せせらぎの音をたよりに夏草をかき分けて進むと、両岸に青草の生い茂った小川に出た。道太は岸に座り、両足を流れに入れて、仰向けに寝転んだ。
 夕焼けである。茜色の雲が空いっぱいに広がっている。雲の色が見る間に変化していく。夕焼けの輝きを全身に受けながら、道太は目をつむった。まぶたの裏にまで夕焼けの暖かな色が伝わってくるようだ。体の芯まで夕焼けに染まるような気がする。日中の暑い盛りには静かだった小鳥たちも、しきりにさえずっている。
 見る間に、夕焼けの雲の動きがはげしくなった。茜色の雲がちぎれて、ちぎれた雲がまたちぎれて、ちぎれて、ちぎれて、小さな綿屑のようになって、ふわふわと舞い降りてくる。道太の上にも、裏山の森の上にも、義家軍の陣の方にも、金沢柵のほうにも、赤や、黄や、紫の小さな雲が、タンポポの綿毛のように漂いながら、舞い降りてくる。

                    続く

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かまくら伝説 その3

前回までのあらすじ

 慎君は父に連れられて、父の郷里に来ている。子どもたちが家の周りを回って鏡餅を貰う「よんじゃめぐり」と言う行事に興味を持つ。その後、横手のかまくら見物に出かける。そこで藁の蓑や靴を身につけた少年に会い、その少年のかまくらに入る。あたりのもやが濃くなって、何も見えなくなる。

     不思議な少年(2)

 急に空気が冷たくなったような気がして、慎君は首をすくめました。ばさりと音がして小さな雪のかたまりが足もとに落ちました。はっとして見上げると、大きなカシの木が枝を広げています。驚いたことに慎君と不思議な少年は、雪原の大きなカシの木下に立っているのでした。
「ここは何処だろう?」
 慎君がつぶやくと、
「さっきと同じところさ」
 と、少年が答えました。
「なんで? さっきかまくらに入ったのに・・・」
「かまくらのあった場所さ。ただし900年前のね」
「なんだって! 900年も前だって?」
 慎君はびっくりして辺りを見まわしました。しかしそこは、ただしんしんと雪が降り続く雪原でした。
 
「前を良く見てごらん」
 不思議な少年が言いました。慎君が目を凝らすと、何か黒いかたまりが、雪原を横切っていきました。なおも目を凝らすと、それはよろいかぶとに身をかためた武士でした。ミルク色のもやの中で、影絵のように、左から現れて、右に消えていきます。一人の武士が消えると、次の武士が現れます。次の武士が消えると、その次野武士が現れます。みな、弓を持ち、矢を背負っています。中には馬にまたがる武士もいます。やがて、ひときは立派な武士が現れました。
「戦争なんだよ。ほら、今そこを通っているのが源義家(ミナモトノヨシイエ)さ」
「源義家って、誰なの?」
「義家を知らないのかい。それじゃあ、源頼朝ならしっているだろう?」
「頼朝ならね。鎌倉幕府を開いた人だよね」
「そうそう。義家はね、頼朝のおじいさんのおじいさんさ。そのころ、日本で1番強いと言われていた武士なんだ。でも、今戦っている清原家衡(キヨハラノイエヒラ)もすごく強くて、さすがの義家も苦しんでいるんだ」
「ふーん」
「うん・・・あ、原島道行だ。馬の上で何か考え事をしながら通る武士がいるだろう。あの武士は作戦を立てるのが上手で、義家の相談相手なんだ」
 しばらく、誰も現れなくなりました。
「もう終わりらしいね」
「まだだよ。少し遅れて僕たちくらいの少年が来るはずだ。原島道行の子どもで、道太って言うんだ」
 話している内に眉が太く、気の強そうな少年が現れました。子どものくせに、大きな弓まで持っています。
「あれが道太だ。慎君、君にはあの少年の心の中に入ってもらうよ」
 霧が深く立ち込めて、不思議な少年の姿が消えました。慎君は体ごと道太の心の中に吸い込まれていきました。
          
                続く

 

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2014年9月 9日 (火)

かまくら伝説 その2

かまくら伝説 その2

前回のあらすじ

 慎君は父と共に父の郷里に来ている。雪の深い秋田県南部である。慎君は2階の窓から、子どもたちが「よんじゃめぐり」の歌をうたいながら、家々をまわって歩くのを見ている。慎君は「よんじゃめぐり」の意味を知りたいと思いました。

     よんじゃめぐり(2)

 子どもたちの歌声が、ますます近づいてきます。とうとう家の前まで来ました。おばあさんが鏡餅と小銭を持って、玄関の前に出ました。

   よんじゃめぐり
   よんじゃめぐり
   寒鍋かけれ

 子どもたちは歌をうたいながら、家の周りをまわります。腰まで雪に沈みながら、漕ぐようにしてまわるのです。

   しけえ酒かけな
   甘酒かけれ
   餅あぶれ
   ほーい、ほーい

 子どもたちは、家のまわりを2回まわってから、鏡餅を受け取りました。

「慎、今日は横手の『かまくら』だよ。お父さんに連れて行ってもらいなさい」
 子どもたちに鏡餅を渡して、家に入ってきたおばあさんが言いました。
「そうだな、慎に『かまくら』を見せてやるか」
 お父さんが言いました。
「お父さん『かまくら』ってどんな意味?」
「おや、また意味を聞くのかい。それも分からないんだよねえ」
 困ったな、と言う顔でお父さんが答えました。

       不思議な少年

 しんしんと雪が降ります。その雪の下で、横手市はかまくら祭りで賑わっています。

 かまくらは大きな雪のほこらです。雪を積み上げて、中をくりぬいて作った雪の家です。中は大人が立って入れるほどの高さがあります。真ん中に火鉢を置いて、まわりに3-4人の子どもが座れる位の広さがあります。
 かまくら祭りは子どもの祭りです。子どもたちはかまくらの中で餅を焼き、甘酒を温めるのです。かまくらの奥には水神様が祭られています。道行く人たちは、水神様におまいりし、甘酒を振舞ってもらうのです。
 慎君はお父さんに連れられて、かまくら見物に来ています。子どもたちに声をかけられて、水神様にお参りしたところです。お父さんが甘酒を飲んでいるうちに、慎君は外へ出ました。

 雪が激しくなりました。あたりはミルク色の濃いもやに包まれてしまいました。そのもやの中から浮き出したように、一人の少年が現れました。藁の雪蓑を被り、藁の靴をはいています。
「こんばんは。きみが慎君ですね。僕のかまくらに来てください」
「え? 僕は今お父さんを待っているんだ。だから行けないよ」
「きみは『よんじゃめぐり』の意味を知りたいんでしょう?『かまくら』の意味も知りたいんでしょう? だったら、僕のかまくらに来てください」
 それだけいうと、少年は慎君の答えも聞かず、くるりと向きを変え、どんどん歩き出しました。慎君は見えない糸に引かれるように、その少年についていきました。少年はずんずん歩きます。慎君はせっせとついていきました。まわりの景色はミルク色のもやの中です。慎君には少年の後姿しか見えません。少年は、いくらか片足を引きずっているように見えます。
 しばらく歩いて、少年は急に立ち止まりました。
「これが僕のかまくらだよ」
 少年の指さすほうを見ると、ミルク色のもやの中から、かまくらがひとつ浮かび上がりました。少年に促されてそのかまくらに入ると、ほかには誰もいません。慎君が水神様にお参りすると、少年は甘酒をくれました。それを飲むと、もやはますます濃くなって、不思議な少年さえも見えなくなりました。

               続く


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2014年9月 8日 (月)

かまくら伝説 その1

かまくら伝説 その1

よんじゃめぐり

 慎君はお父さんに連れられて、秋田県の南の端の、おばあさんの家に来ています。そこは小さな村で、お父さんのふるさとです。
 雪が慎君の背の高さより、もっと深く積もっています。こんな深い雪を慎君ははじめて見ました。それがめずらしくて、二階の窓際によって、外ばかり見ています。
 雪はしんしんと降っています。あたり一面がミルク色に煙っています。静かです。その静けさを破って、子どもたちの歌声が聞こえてきました。
「お父さん、あの歌、聞こえる?」
「歌? そうか今日は『よんじゃめぐり』だったのか。まだあんな行事をやってるんだなあ・・・」
 お父さんは目を細くして、昔を思い出しているようです。
「ねえ、お父さん『よんじゃめぐり』って何なの」
「ああ、あれはね、旧暦の1月15日に子どもたちが集まって、村中の家をまわって、鏡餅を貰って歩くのさ。歌を歌いながらまわるんだ。あとで、皆でお餅を食べるのが楽しみでねえ・・・」
「ふうん。歌がだんだん近づいてくるね」
 慎君は窓から首を出して、耳を澄ましました。子どもたちの、元気の良い歌声が近
づいてきます。

   ヨンジャァメグリ
   ヨンジャァメグリ
   カーンナベカケレ
   シッケェサケカケナ
   アマサケカケレ
   モチアブレ
   ホーイ ホーイ

「変な歌だなあ。どんな意味なの」
 慎君が聞いたので、お父さんはその歌詞を紙に書きました。

   よんじゃめぐり
   よんじゃめぐり
   寒鍋かけれ
   しけ酒(辛い酒)かけな
   甘酒かけれ
   餅あぶれ
   ほーい ほーい


「よんじゃめぐりって言うことばの意味は?」
「ウーン、よんじゃめぐりの意味ねえ・・・分からないなあ。そういえば、誰からも聞いたことがないねえ」
 そう言われると、慎君はかえって知りたくなります。「よんじゃめぐり、よんじゃめぐり、と、頭の中でくりかえしました。

                     続く  

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