影隠し地蔵縁起・最終回
2月11日(木)
影隠し地蔵縁起 第20回(最終回)
~風は見ていた~
エピローグ
それから何百年も過ぎても、人はまだ争いをやめないのである。日本は、アメリカと戦争をしたいた。
そのころ、村は発展して町になっていた。
その日は穏やかに晴れて、初夏の風が気持ちよく吹いていたが、空には黒雲がわき出して、何か不吉な予感のする日だった。少女が一人、影隠し地蔵の前で、草を摘んでいた。
突然空に爆音がして、アメリカの爆撃機B29が、近くの軍需工場をめがけて、何発もの爆弾と焼夷弾を落としていった。めらめらと火が上がり、炎は清水八幡の社にも燃え移った。炎は風を呼び、風は炎を増幅させる。
あたり一面が火の海になった。少女はすぐに、影隠し地蔵の後ろに隠れた。影隠し地蔵が逃げまどう者を隠してくれることを、少女は知ったいた。しかし炎は、影があるものも無いものも、すべてを焼き尽くしていった。地蔵にも火がつき、少女と共に燃え上がった。
「あ! ひどい!」
どこかで声がします。風の声でしょうか? いえ、慎くんが叫んだのかもしれません。気がつくと慎くんは、影隠し地蔵の前に立っていました。
何事もなかったように人は歩き、車は走っています。影隠し地蔵は、二瘤川の橋のたもとにあるお地蔵さんでした。いつも赤いよだれかけを掛けていて、慎くんがこれまで何度も見たことのあるものでした。
地蔵は、街の人が戦のあとで建てたものです。それは今でも、影隠し地蔵と呼ばれています。でも地蔵は、もう誰も隠しません。ただ立っているだけです。
今も風は吹いています。風には喜びも悲しみもありません。風は、黙って吹いています。風は、ただ、見ているのです。
慎くんは夕暮れの町を、のろのろと駅に向かって歩き出しました。
終わり
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