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2014年8月 6日 (水)

本のないお話

    

本のないお話(1)

   終業式の後で

 三年三組の教室はとても賑やかでした。今、終業式が終わったばかりです。終業式では、担任の山田美智子先生が、山梨へ行ってしまうという話がありました。この学校では、担任の先生はたいてい二年くらい同じクラスを受け持ちます。だからみんなは、四年生になっても、山田先生が担任になるのだとばかり思っていました。それなのに、終業式で、山田先生が学校を辞めると発表されたのです。

 教室のドアが開いて、山田先生が入ってきました。
「先生、どうして学校辞めるの?」
「何で今まで内緒にしていたの?」
 みんなは口々に聞きました。
「今まで黙っていてごめんなさい。言うと寂しくなるので、わざと言いませんでした。実は先生のお母さんが、ずっと遠い山梨の田舎に住んでいます。そのお母さんが歳を取って、体が弱くなったので、先生が一緒に住むことになったのです」
 先生が静かに話しました。
「私が皆さんくらいの時、日本は戦争をしていました。それから戦争が終って、誰もが苦しい生活をしていました。そんななかで、お母さんは苦労をして私を育ててくれました。今度は私がお母さんの世話をしようと思います。ですから田舎へ行くことに決めたのです」
「先生のお母さんは病気なの?」
 和子が聞きました。
「ええ、悪いところもあるようです。でも、先生は学校を辞めますが、皆さんは今までと同じ元気な四年生になってください。みんなのことはいつまでも忘れませんよ。やめる話は、それくらいにしましょうね。落ち着いたら先生がみなさんにお手紙を出します。もなさんも、きっとご返事をくださいね」
 みんなは、もっともっと話を聞きたいと思いました。でも、先生はそれ以上話してくれそうもありません。クラス中がシーンとしました。いつもは賑やかな正夫も、なんだか淋しくなってきました。その淋しさがたまらなくなって、わざと大きな声で言いました。
「先生、今日は本を読んでもらう日です」
「あっ、そうだ。お話の日だ」
「本を読んでください」
 宏も、次郎も言いました。山田先生は一週に一度、みんなに本を読んでやっていたのです。みんなはそれをとても楽しみにしていました。
 教室が少しざわざわしてきました。
「そうですね、お話の日ですね。だけど、今日は本を読みません」
 いつもの、少しいたずらっぽい目をして先生が言いました。
「ずるい。お話が無しだなんてずるいと思います」
 びっくりするほど大きな声で、正夫が言いました。先生はくすりと笑いました。
「本は読まないけれど、お話はします。今日は先生の知っているお話をします。本のないお話です」
 みんなはお話しが聞けると知ってほっとしました。でも、本のないお話って、どんなお話でしょうか。クラス中がまっすぐに先生の方を見ました。先生は静かに話し始めました。それは、次のようなお話でした。
                       続く

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