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2012年1月10日 (火)

聞き書き 長堀釜太郎 4

1月10日(火)

昨日の続き

・・・おれは重機関砲の弾薬手だった。弾薬手ってのは、つまり弾込めさ。狭い壕の中で撃っていたんだ。だけどアメリカ軍の砲撃が凄くて、退却することになった。体裁良く陣地変換なんていうんだけどね。長い壕で、おれが一番前にいたんだ。弾薬手だからね。分隊長は一番うしろにいて、退却は一番先さ。その分隊長が壕を出たとたん、鉄砲の弾が飛んできて、腕時計にあたった。いま山梨県にいるらしいよ。

・・・アメリカ軍と日本軍では戦力がまるで違っていたからね、おれたちは隠れながら逃げるだけさ。山の中で終戦を迎えたんだ。そして捕虜になった。アメリカ軍は日本みたいに無理はしないからね。絶対に安全にならなければ陣地を広げてこない。だから終戦まで隠れていることができた。

・・・ダバオにいたのは20歳くらいだったんだけど、色気なんか全然なかったね。食い気ばかりさ。食いたい、食いたいで、夜寝るときなんか、鮨だの、ソバだの、あんころ餅だの、次から次へと思い出すんだ。ミンダナオ島では、芋ばっかり食っていたような気がするなあ。

・・・捕虜になっているときに、食い物の量が少ないってんで、仲間から代表を選んで、アメリカ軍に抗議を申し込んだんだ。そしたら「条約できめられた量は出している。君たちはいまに太るだろう」って解答だった。本当にその通りだった。栄養はちゃんとあったんだ。おれたちには歯ごたえのないものばかりで、物足りなかったけどね。

・・・おれは酒もタバコもやらないから、兵隊の時は助かった。わずかだけど、たまには焼酎とタバコが配給になるんだ。それをほかのものと交換できたからね。

・・・でも、酒はすこしは飲むようになった。明日のことも分からない命なんだから、飲むものくらい飲んでおかなきゃ損だ、なんて気がしたんだ。もっとも、酔うほどの量は配給にならなかったけれどね。

・・・軍隊ではなんてこともないのに人をひっぱたくんだよ。おれもずいぶんひっぱたかれた。おれの友達なんか顔の形が変わるほどひっぱたかれた。

・・・軍隊じゃあ時々持ち物の員数合わせをするんだ。そんなときは、自分の物が無くなっていれば、人のをかっぱらって員数を合わせるんだ。自分の物が無くなるったって、どうせ誰かにかっぱわれているんだ。だからどうどうめぐりさ。みんなで、かっぱらいごっこをしているようなもんだ。

・・・おれの友達はね、飯ごうを無くして他人のをかっぱらったんだけれど、それが隣の班の班長ので、名前が書いてあったんだ。それが見つかって、顔が分からなくなるほど殴られたってわけだ。

・・・何年か前、もとの班長から「会いたい」なんて手紙が来たけど、おれは返事も出さなかった。向こうは懐かしいかも知れないが、こっちは顔も見たくないや。彼奴にはどれだけひっぱたかれたか、なんて思うから……。

                       続く

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