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2012年1月12日 (木)

聞き書き 長堀釜太郎 6

1月12日(木)

聞き書き、長堀釜太郎 6

○ノコギリの話し

・・・前にも話したけれど、おれは体が小さいから体力じゃ挽けないんだ。ノコギリの目立てとか、焼き入れとかいろいろ工夫するんだ。おれは目立てでも焼き入れでも、自分でするからね。

・・・もとは近くの鍛冶屋の爺さんにやって貰っていた。だけどおれは心配性でね、爺さんが亡くなった時の用心のために、ぼつぼつと練習していたんだ。だから、爺さんが死んでも困らなかった。

・・・知っての通りおれたちが使うのは前挽鋸(まえびきのこ)だ。いまじゃほとんど使う人がいないから、民俗資料館なんかで飾ってることが多い。何しろ大工が使うノコギリなんかに比べたら、ばかでかいから、こけおどしに飾っておきにはいいや。

  (前挽鋸……刃渡りが6-70センチ幅が40センチかそれ以上ある大型のノコギリ)

・・・とにかくでかいからね、焼き入れはノコギリ全体をやらずに、刃を1枚1枚焼いていくんだ。一丁の前挽鋸で刃は30枚くらいだ。それを1枚1枚焼いて、赤くして、水につける。ノコギリは大きいけれど、刃の1枚1枚は小さいから、焼きすぎれば鉄が溶けるし、火から離せばすぐ冷める。ぐずぐずしてはいられない。忙しいんだよ。

・・・焼きを入れたら、刃がカチンカチンになる。そのまま使ったら刃が折れちゃう。だから今度は焼きを戻すんだ。もう1度焼くんだけれど、これが難しいんだ。今度は赤くなるまで焼かないで、紫色になるまでだな。ウッカリすると、またもとのカチンカチンになちゃう。目の色を変えてやるようだった。おれが焼き入れを始めると、女房なんかそばに寄りつかなかったもんだ。

・・・ノコギリにはアサリがあるだろう。アサリは刃1枚ごとに左右に張り出すだろう。その1番先の刃だけ、右にも左にも出したいんだよ。1番先の刃だけ、アサリじゃなくて三味線の撥のような形にしたいんだ。その方が無理なくノコギリが通って、挽きやすいんだよ。こんなことを考えるのはおれだけだと思うけどね。まあ、おれの工夫だね。

・・・そんな前挽鋸にするため、1枚の刃とおなじ大きさの三角の鉄を作って、それを歯並びの1番先に溶接で付けた。鍛冶屋の爺さんにもやって貰ったけれど、これはおれの方が上手かったな。

・・・その撥型の三角の鉄は三角ヤスリを切って作った。おれは何でも心配性で、こんなヤスリはいずれ無くなると思ったから、昭和25年ころに20本ほど買って置いた。それでもおれが60になったころは心細くなってきて、大切に使った。何のことはない。終わってみたらヤスリが2-3本あまったけどな。

                 続く

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