« 次女退院 | トップページ | 赤ちゃんの掌 »

2010年1月11日 (月)

かまくら伝説・8

1月11日(月)

かまくら伝説 第8回

のほこら・

 どれほどの時間がたったのだろうか。太ももの痛さで、道太は目を覚ました。だれかが傷の手当てをしている。どこかで見たことのある少女だ。

「しず・・・しずだね。助けてくれたのか?」

 しずは透き通るほど白い顔をしたいた。しずは道太の傷口を荒い、貝殻に入れた薬を塗り、布きれで包帯をした。そしてつぶやくように言った。

「痛いでしょう? 痛いでしょうね。私はもっと痛かったの・・・」

 傷の手当てが終わると、しずは1度外へ出て、すぐに、木の椀を両手に抱えて戻ってきた。温かい芋がゆだった。道太はその芋がゆを食べると、再び眠りに落ちていった。

 ・・・

 外からの話し声で、道太は目を覚ました。

「今度の戦いで、義家軍はさんざんにやられたらしい。これで戦が終わるといいね」

「いや、終わらないだろう。義家さまはご無事らしい。清原軍も疲れ切っていてるので、追い打ちをする力はないということだ」

「それでは、この戦は、一体どうなるんだろう?」

「そうさねえ・・・もとはといえば、義家さまが清原氏の内輪もめに手を出したからだが・・・」

「義家さまは、ずっと前に、清原氏に助けてもらったことがあるんだってね」

「そうなんだ。義家さまの父の源頼義さまと安倍氏の戦のとき、清原氏に助けてもらったんだ。今度はその清原氏を討とうというのだからね、清原軍では、義家さまを、恩知らずといっているそうだよ」

「それにしても、こんな戦は早く終わってもらいたいね。われわれ百姓には迷惑なばかりだ」

「全くだ。この前など、敵と間違えられて、殺された娘がいるんだ」

「殺したのは、義家軍かい、それとも清原軍かい?」

「それは分からない。だけど、どっちにしても、私たちには同じことさ」

「全くだ」

「こんなところで立ち話をしていると、私たちもどちらかの敵と思われるかもしれない。早く帰ろう」

「そうしよう。くわばら、くわばら」

 外は、それっきり静かになった。道太はこれまで、義家さまのすることは、すべて正しいのだと思っていた。義家さまを、恩知らずなどという人がいるとは、信じられないことだった。

 しずがまた芋がゆを持ってきた。芋がゆを食べると、不思議に足の痛みが引き、道太は急に元気が出てきた。疲れもすっかり取れている。

「道太さまはもう歩けますね。だけど、私は治らなかったの」

「え? しずも怪我をしたのか?」

 しずはそれには答えず、黙って顔を伏せた。その顔は透明に近く、雪よりも青白く見えた。

 しずが出ていった後で、道太も外へ出た。外は静かな雪である。近くにしずの家があるはずだと思って見まわしたが、それらしい家はなく、あたりは白一色の雪の原である。不思議に思って振り返ると、さっきまで入っていた雪のほこらが消えている。まるで狐に化かされているようで、道太はしばらく、ぽかんとその場に立ちつくした。

                 続く

|

« 次女退院 | トップページ | 赤ちゃんの掌 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/118203/32949358

この記事へのトラックバック一覧です: かまくら伝説・8:

« 次女退院 | トップページ | 赤ちゃんの掌 »