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2010年1月 8日 (金)

かまくら伝説・5

1月8日(金)

かまくら伝説 第5回

蛍の少女

 いくさはもう何年も続いている。源義家が東北地方の長官として京都からやってきたとき、原島道太は父の道行と共に、義家に従ってやってきた。そのころ8歳だった道太も、今は12歳だ。いくさは、義家がこの地について、間もなく始まった。道太は、京都のことはもう思い出すこともない。生まれたときから、すうっといくさをしているような気さえする。

 清原家衡の軍は強力だった。何年も戦って、義家軍は、家衡の立てこもっていた沼柵(ヌマノキ)を落としたが、家衡は落ちのびて、金沢柵(カネザワノキ)に入って、抵抗を続けている。慎くんが道太を見かけたのは、義家軍が清原軍を追って、金沢柵に向かっていたときである。

 慎くんが道太の心に入ってから半年が過ぎ、今はもう夏である。あいかわらず家衡は、太い柱を隙間なく並べて城のようにした、金沢柵に立てこもっている。義家軍は、どうしても金沢柵を落とすことが出来ないのだ。

 ここ何日、うだるような暑さが続き、両軍に目立った動きはない。ある夕方、道太は陣の裏山の方に行ってみた。せせらぎの音をたよりに、夏草をかき分けて進むと、両岸に青草の生い茂った小川にでた。道太は岸に座り、両足を流れに入れて、あおむけに寝ころんだ。

 夕焼けである。茜色の雲が空いっぱいに広がっている。雲の色が、見る間に変化していく。夕焼けの輝きを全身に受けながら、道太は目をつむった。まぶたの裏にまで、夕焼けの暖かな色が伝わってくるようだ。体の芯まで、夕焼けに染まっていくようである。日中の暑い盛りは静かだった小鳥たちも、しきりにさえづっている。

 やがて、夕焼けの雲の動きがはげしくなった。あかね色の雲がちぎれて、ちぎれたくもがまたちぎれて、ちぎれて、ちぎれて、小さな綿くずのようになって、赤や紫の色のまま、ふわりふわりと舞い降りてくる。道太の上にも、裏山の森の上にも、義家軍の陣の方にも、金沢柵の方にも、赤や黄や紫の小さな雲が、たんぽぽの綿毛のように漂いながら、舞い降りてくる。

                   続く

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