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2010年1月31日 (日)

影隠し地蔵縁起・9

1月31日(日)

影隠し地蔵縁起 第9回

     ~風は見ていた~

源爺の話 7

 それから何日か過ぎて、春光が源吉に言った。

「源吉さん、夫婦が2組出来たんだ。村の始まりだよ。ここに人が住んでいると分かれば、これからやってくる人もいるに違いない。だんだん人も増えるだろう。私はこの村の守りに、お地蔵様を造ろうと思うのだが、どうだろう」

「それは良い考えだ。仏師の春光さんが作るなら、きっといいお地蔵さまが出来るだべ」

「それで、今日にも地蔵にする木を見に行きたいんだが、一緒に行ってくれますね」

「いいですとも」

「実は、この前から目を付けている木があるんです。1人で切り出すのは大変なんで、手伝ってください」

 すぐの相談はまとまり、2人は近くの森に出かけた。少し藪こぎをして、春光は、一本の木の前に立ち止まった。一抱えもありそうな木だ。

「この木なんですよ、目を付けていたのは」

「クスノキかや」

「そうです。この辺にはクスノキは少ないんですよ。仏像を作るにはいい木なんです。だけど、これだけ太いと、倒すのが大変だ

「春光さんがこの木が良いというなら、この木を倒すべえ。大変だども、鉈もあるし、2人で力を合わせれば、倒せないこともあんめえ」

 そのクスノキに取りかかる前に、2人はまわりの藪を払うことにした。そうしなければ作業がしにくいのだ。藪を払うだけでも、大変な作業だ。

 2人がその作業に没頭していると、ザワザワと風の騒ぐ音がして、藪の向こうから、おしげの叫ぶ声が聞こえた。

「春光さん! 源吉! 何処にいるだ!」

「おう、ここだ。どうしただ!」

通り抜ける風と共に、おしげが藪をかき分けて顔を出した。

「大変だ! せつ子さんが連れて行かれただ!」

 息をぜいぜいさせながら、おしげが言った。

「なんだって!」

~あんたらが出てから、おら達は二瘤山さ、山菜採りに行っただよ。昼をだいぶ過ぎたころ帰ってきたら、小屋の前に、侍が2人立っていただ。侍が、なんでまあこんなところに来たんだべとおらは思っただ。だども、せつ子さんは、山菜を放り出して逃げようとしただ。けれども、すぐに捕まってしまっただ。

~おら、何が何だか分からずに、ぼうっと立っていたら、侍が言っただ。

『そこの女。せつ子様は親方様のところへ連れて帰る。春光に言っておけ、親方様のお情けで、おまえの命まではうばわない、とな』 

~そう言って、無理やりせつ子さんを連れて行ってしまっただ。

~侍がいなくなってから、おら、急いで知らせに来ただ。

 おしげの話をみなまで聞かず、春光は駆けだしていた。呆然と立ちつくす源吉とおしげのまわりで、風に煽られた木の葉が、くるくると回りながら散っていた。もう冬は近い。

                  続く

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