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2010年1月10日 (日)

かまくら伝説・七

1月10日(日)

かまくら伝説 第7回

雪のほこら

 戦は勝ったり負けたりのくり返しで、本当の勝負が付かないまま、また冬がやってきた。

 あと2,3日で正月という日、大きな戦いがあり、義家軍の陣は破られてしまった。味方は、ちりじりになって逃げた。父の道行が道太に言った。

「わしは義家さまをお守りする。おまえは一人で逃げよ。武士の子ならば、自分力で逃げのびよ」

 道太は裏山をめざして逃げた。雪に足を取られながら懸命に逃げた。どのあたりまで逃げたときだったか、太ももを濡れた筆でなでられるような感触がして、目の前の雪に、流れ矢が突き刺さった。 

Tati0009_2  なおも道太は夢中で逃げた。いつの間にか夏の日に、しずと会った裏山のふもとを通りすぎていた。小川はすっかり雪に埋もれている。左足の、腿のあたりがこわばってきた。そっと手を当ててみると、着ているものを通して、掌に血が付いてくる。さっきの流れ矢でやられたらしい。夢中で走っていたために、怪我に気がつかなかったのである。

「なあに、かすり傷だ」

 道太は、自分に言い聞かせながら、なおも逃げた

 どのくらい逃げたのだろうか。夜が近くなってきた。道太は疲れ切って、雪の上に何度も倒れ、そのつど起き上がって、のろのろと歩き出すのだった。今度倒れたら、もう起き上がれないかもしれない。棒のような足には、雪の冷たさも感じられなくなっていた。左ももの傷だけが、生きている証拠のようにうずく。しかしそれも、痛いのか痛くないのか、良く分からないようになった。頭はもやがかかったようで、何も考えることが出来ない。

「道太様」

 ふいに、だれかの声がする。道太は振り返ったが、誰も見えない。まぼろしの声を聞いたのだと、道太は思った。

「道太様」

 また声が聞こえる。しかし、やはり誰もいないのである。自分は死ぬのかもしれない、だから、まぼろしの声が聞こえるのだ、と道太は思った。

「道太様」

 なおも声が聞こえる。死ぬものならば死んでもかまわない、声のする方に行ってみよう、と道太は思った。のろのろと歩いて行くと、目の前に雪のほこらが現れた。道太はそのほこらに入った。ほこらの中は意外に広く、下には、厚くわらが敷かれている。道太はその藁の上に倒れこみ、深い眠りに落ちていった。

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