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2010年1月13日 (水)

かまくら伝説・10

1月13日(水)

かまくら伝説 第10回

 道太が見回りをはじめると、父の道行がやってきて、声をかけた。

「道太、おまえが傷の手当てを受けたという娘のことだが、娘の霊魂だったかもしれないね」

「霊魂? それはなぜですか」

「生きている娘だとしたら、不思議すぎるじゃないか。ほこらにときは、声だけ聞こえて姿は見えなかったのだろう。まわりに家がないのに、温かい芋がゆを運んできたというのも変だ。それに、ほこらを出たら、何もかも消えてしまったと言うではないか。結局おまえは、ほこらの中でしか娘を見ていないのだ。しかも、そのほこらも、本当は見えないほこらだ」

「・・・」

「霊魂だったのだよ。この前のいくさでは、裏山のあたりで討たれた娘がいるそうだ。裏山のふもとまで逃げた者がいて、だれか人影が見えたので、敵かと思って槍で突いたそうだ。ところが、倒れたのは女の子だったらしい。それが、おまえの言っている、しずという娘ではないかと思うのだ」

「・・・」

 道太は、石を飲み込んだような、思い気持ちになった。そう言えば、思い当たることばかりだ。雪のほこらのしずと、蛍をつかまえていたしずとでは、まるで別人のようだった。妙に大人びていたし、顔の色も透き通るほど白かったのだ。

「一体誰が、しずを殺したのです?」

「それを聞いてどうする。今さらどうにもならないことではないか」

 道太は、体中の力が抜けていくような気がした。

「そんなに気を落とすな。いくさというものは、まわりの人間を巻き込むことがあるものさ。あまり考えずに、見張りをやりなさい。それが、今のおまえの仕事なのだ」

 道行は道太の肩を叩いて、ほこらの中に入った。

 しきりに、喉が渇く。道太は、足元の雪を一掴み、口の中に押し込んだ。

 降りしきる雪の向こうに、、ぼんやりと、しずの姿が浮かび上がる。しずのまわりの雪が、茜色に変わり、赤や黄や紫に変わった。蛍だ! 降る雪がすべて、蛍に変わった。

「あは、あははは、あははは」

 初めてしずにあったときの明るい声がして、しずが蛍を追っている。

「しず・・・」

 思わず道太が呼びかけると、

「私はもっと痛かったの、私は治らなかったの」

 という声がして、しずも蛍も消えてしまった。

 道太は我に返って、もう1度雪を飲み込んだ。何度雪を飲み込んでも、喉の渇きはとれない。道太は初めて、心の底から戦を憎んだ。

・・・

 雪のほこらからは、甘酒を酌み交わす武将たちの、ざわめきが聞こえてくる。道太は雪のほこらを回り始めた。しずの幻を振り払うように、道太はうたう。

  用心めぐり

  用心めぐり

  寒鍋かけろ

  辛い酒かけるな

  甘酒かけろ

  餅を焼け

  ホーイ ホーイ

 雪は降り続き、夜は更ける。雪のほこらのざわめきは消え、武将たちも眠りの落ちた。道太の歌声だけが、いつまでも響いていた。

               続く

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