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2009年12月27日 (日)

本のないお話・4

12月27日(日)

本のないお話 第4回

道具を埋めるお父さん

 戦争中にも、みち子たちの学校には、給食がありました。1年生の時には、給食にご飯が出ました。家から、おかずと空の弁当箱を持っていきます。お昼になると、1年生から順番に、大きな釜のあるところへ行きます。すると小使いさんが、空の弁当箱に、ご飯を入れてくれるのです。2年生になると、ご飯の代わり、コッペパン1個の給食になりました。パンは、おかず無しで食べました。ジャムもバターも付けないコッペパンを、水を飲みながら食べるのです。

 やがて、土曜日は玄米パンになりました。すぐに、水曜日も玄米パンになりました。それから、給食がなくなりました。

 家では、みんな雑炊を食べていました。雑炊は、どろどろしたお湯の中に、あり合わせの野菜が入り、お米がほんの少し混ざっていました。雑炊も配給で、3食ごとに、雑炊を作るお店の前に、鍋を持って並ぶのです。お店の人が、その家の人数分だけ、大きなひしゃくで雑炊を掬って、鍋に入れてくれます。みち子も、良く鍋を持って並びました。戦争が終わって何年も経ってから、豚の餌を見たとき、みち子は、あのときの雑炊と似ていると思いました。

 そのころお父さんは、強制疎開の家を壊す仕事はやめて、メガホンと荷札を売る仕事をしていました。

 メガホンは、警防団の人達が、

「警戒警報発令!」

 とか、

「空襲警報発令!」 

 などと叫んで歩くために必要な物でした。また、配給のお知らせなども、メガホンでやりました。

 荷札は、疎開する人が荷物を送るために必要でした。疎開する人はおおいし、荷物は乱暴に扱われるので、荷造りはあり合わせの木の板で囲んで作りました。荷札はベニヤ板で出来ていて、四隅を荷造りの板に釘で打ち付けるのです。

 荷造りするための釘も不足していました。そのくせ、なぜがあのころは、道に釘が落ちていたものです。錆びて曲がった釘です。そんな釘でも、見つけたら拾うのが当たり前でした。金槌で叩いて、のばして使うのです。荷造りしたものを壊すときも、抜いた釘は大切に取っておきました。1本の釘を何度も使うのです。

 それでも釘がたりなくて、、荷札を売るときに、釘も付けるように求められました。それでお父さんは、上手に打たなければすぐ曲がってしまうような細い釘を、荷札1枚に4本付けて、一緒に売るようになりました。そんな釘しか手に入らなかったのです。

 お父さんは自転車の荷台に、メガホンと荷札を積んで、東京中を売り歩きました。

ある日お父さんは、荒川の近くに売りに行きました。気がつくと、空襲警報も警戒警報もなかったのに、アメリカの飛行機B29が真上にいました。警報はいつでも遅れ気味なのです。B29が焼夷弾を落とすのが見えました。お父さんは手許のメガホンで、

「焼夷弾落下!」

 と叫びながら、自転車を全速力で走らせました。お父さんが夢中で逃げて、荒川の土手まで来たとき、焼夷弾が目の前の荒川に落ちました。慌てていたので、焼夷弾の落ちる方に逃げたのでした。家に帰って、お父さんがその話しをして、言いました。

「今日は命拾いをした。お前たちの疎開先を、早く見つけなくてはいけないなあ」

                                                            Imgp2672  

 昭和20年1月、おとうさんは補充兵として入隊することになりました。お父さんは、カンナやノミを丁寧に研いで、油をひき、新聞紙に来るんで、油紙を敷いたリンゴの箱に入れました。更にその箱を油紙で包み、庭に穴を掘って埋めました。そのころは、ラップもビニールもありません。濡らしたくないものは、油を染み込ませた紙に包んだのです。

「道具はね、使う人がいなくなると、不思議に早く錆びるんだ。なんでかなあ」

 みち子が側に行くと、お父さんが話しかけました。

「まして土の中に埋めたりしたら、錆が早いだろうなあ。そうかと言って、出しておいたんでは空襲でやられるかもしれないし・・・」

 最後は独り言のようにつぶやきました。

「俺は、満足な琴はひとつも作れなかったような気がする・・・」

「元気で帰ってきて、もっと、もっと、良い琴をたくさん作ってください」

 いつの間にか側に来ていたお母さんが言いました。

「うん、死にやしないさ。だけど、また琴を作れるような時代が来るのかなあ・・・」

「来ますとも。きっと、来ますとも」

 そう言うお母さんは、少し涙声でした。

                 続く

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