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2009年12月 2日 (水)

天狗が塔に棲みつく・3

12月2日(水)

御伽婢子・145

天狗が塔に棲みつく・3

前回までのあらすじ 寛正5年4月、京の糺す河原の猿楽能は大盛況だった。しかしある日、その桟敷から火の手が上あがり火事になった。その騒ぎで行方不明になった12歳の次郎が、20日後に見つけ出される。次郎の話しでは、50歳くらいの法師が楽屋の屋根に上がり、なにやら祈って火事をおこしたらしい。その後法師は、次郎を法勝寺の塔に連れて行く。次郎はその経験を話している。

塔の中には何もなくて、金剛杖とおそろしい様子の仏の絵があるだけだった。ある日法師は、私を塔の中に置いたままで外に出て、道行く人にさまざまな態度を取った。ある人には腰をかがめてお辞儀をし、他の人の頭を殴りつける。顔につばを吐きかける人もいれば、後ろから背中をこづいて倒してしまう人もいる。法師がそんなことをしても、誰も、何も気がつかない。今度は二人の人間の首根っこを捕まえて鉢合わせさせ、二人は刀を抜いて喧嘩を始め、血に染まった。

そのほかに、私を勢田の橋まで蛍見物に連れて行ったり、賀茂の祭りや松尾の祭りに連れて行ってもくれた。

私は法師に聞いた。

「往来に出て、お辞儀をしたり、頭を殴ったりするのはなぜですか?」

「うむ、そのことか。正直で礼儀正しく信心深い人に会えばお辞儀をするのだよ。金持ちだけれども、貧乏人を馬鹿にするような奴は頭を殴る。生半可な才覚があっても、人を見下すものも同じだ。背中を突き倒すのは、少し学問がある出家で、そのじつ信じる心も慈悲の心もない奴だ。少しの武勇を自慢して人を人とも思わぬものは喧嘩をさせる。顔につばをはきかけたのは、牛や馬を喰った人間だ」

「・・・」

「小僧、おまえもよく憶えて置きなさい。正直に慈悲心があり、信心深い人ほどおそろしいものはない。たとへ高位高官でも、欲張りで慢心があり非道なものは必ず良くないことが起きる。今後起きることも少し話しておこう。その通りになるかどうか、きちんと見ておきなさい」

その話しをしたあとで、法師は私を連れて往来に降りてきました。その後のことは分かりません。

次郎の話しはそれで終わった。その後の世の中は、法師が話したようになった。

そんなことがあって、法勝寺の塔に天狗が住むと噂されるようになったが、その塔は応仁の乱で焼け崩れた。

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