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2009年12月 3日 (木)

幽霊が乳児に授乳する

12月3日(木)

御伽婢子・146

幽霊が乳児に授乳する

伊予の国風早郡のあ百姓、結核のため一族がみな死に絶えて、兄弟だけが残った。弟の妻も乳飲み子を残して亡くなった。

妻が亡くなって1ヶ月もしたころ、弟の家の戸を、夜中に叩くものがある。開けてみると、亡くなったはずの妻である。怪しみ怖れたけれども、追い返すことも出来ず家に上げると、乳児に乳をやって、朝には帰った。その後、毎晩やってくるようになった。

弟の家に毎晩女が忍んでくる、という噂を聞きつけて、兄がやってきた。

「おまえはまだ妻が死んで49日も過ぎないというのに、もう女を引っ張り込んでいると言うではないか。恥ずかしくないのか。そんなことでは世間に顔向けが出来ない。せめて1周忌が過ぎるまで、女に近づくのはやめなさい」

「兄さん、それは違う。毎晩来るのは妻の幽霊で、わが子かわいさに乳をやりに来ているのですよ」

弟の言葉を聞いて兄はなお疑問に思った。幽霊が乳を与えに来るはずがない。それは化け物ではないか? われわれ兄弟だけが生き残ったのだけれども、化け物はその弟まで殺そうとしているのではないだろうか?化け物でも妻に化けてきている以上、弟の方は疑問を持つまい。これは俺が何とかしよう。

そこで長刀を持って弟の家の門の脇に隠れていた。あんのじょう午後10時頃、門を開いて中に入ろうとするものがある。兄は物をも言わず、長刀を振り下ろした。そのものは、

「ああ、悲しい。悔しい」

といって逃げていった。

朝になって血の跡を追っていくと、妻の墓の前に屍が倒れていた。墓を掘ってみると、棺の中は空である。妻の屍を元のように埋めたが、赤子は死に、程なく兄弟も死んでしまった。

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