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2009年11月24日 (火)

盲女を憐れんだ寡婦

11月24日(火)

御伽婢子・141

盲女を憐れんだ寡婦

武田信玄は駿河の国を襲い、今川氏元を追い落とし、民家を焼き討ちし、駿府を奪い取った。

城下の民はあわてふためき、我先にと逃げまどった。武田の軍勢は大勢で押し寄せ、家々に上がり込み、財物を奪い、落人を打ち伏せて身ぐるみ剥ぎ取り、切り倒し、追い落とし、男女の泣き叫ぶ声は鬨の声と合わさって、天地もくずれるばかりであった。

氏家は行方が分からず、信玄は勝利を得、城下は焼け静まって、人々は帰ってきた。

そんなとき、焼け跡の溝の中に、7-8歳の女の子が泣き叫んでいた。見ると、目の見えない子である。この子の父は氏家の家来三浦右衛門に憎まれて牢獄で死に、そのショックで母も死んだ。姉がこの子を育てていたが、その姉も、今度の戦で流れ矢にあたって死んだ。

隣の寡婦がこの子を見つけ、気の毒に思って自らの菰張りの貧しい小屋に背負ってきた。自分自身の食さへも満足に採れないのに、見捨てることは出来ず、なんとか育てようと思ったのである。

だが女の子は、姉も死んでしまったことを知り、悲しみのあまり、食事もとらず、死んでしまった。寡婦はやむを得ず、火葬に付した。すると女の子の帯の間から2両の金が出てきた。万一のためにと思って、親が帯に縫いつけていたものであろう。寡婦はその金を使って僧を呼び、仏事を営み、自分のためには少しも使わなかった。

武田信玄はこれを伝え聞き、感心して、家を建ててやった。おかげで、とにもこうにも、穏やかに生きていけるようになった。

人間豊かなる時は、義理人情をわきまえ、正直にも見える。貧しくなると、義理を捨て、礼儀もわきまえず、金銭にどん欲になるものである。この寡婦のように貧しくとも正直で、慈悲の心を忘れぬ者は珍しい。

義理を忘れ、よこしまな心を持つ者は、この寡婦の前では、恥ずかしい罪人ではないだろうか。

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