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2009年11月11日 (水)

魂がさまよう 膾の精

11月11日(火)

御伽婢子・130

魂がさまよう

河内の国、弓削というところに友勝という鍛冶屋がいた。用があって大和に行った帰り、あまりに疲れたので、山の側で休んでいた。するとそこに、自分は馬に乗りながら、もう1匹の馬を追いながらやってきた人がいる。もう1匹の馬にも鞍が置いてある。

「私はとても疲れています。その馬が空いているのでしたら、私を乗せてくれませんか」

「それはお気の毒に。良いですよ。お乗りください。だけど、川の向こうまでです。そこで降りてくださいね」

友勝は喜んで馬に乗り、川を渡ったところで馬を下りた。

友勝が家に着いたのは、もう日暮れ時だった。家では、家族の他兄弟など一族のものが集まって、宴会をやっていた。

友勝が帰ったのに誰も見向きもしない。妻の名を呼び、子供に声をかけ、兄弟を呼んでも、振り向きもしないのである。あまりのことに腹を立て、友勝は妻を殴ったのに、妻は表情ひとつ変えず、「家の人がいたら、もっと楽しいのにねえ」などといっている。

なんとしたことだ「知らないうちにおれは死んでしまったらしい」と思うと力も抜け、ふらふらと村の外れに行き、ぼんやりと立っていた。するとそこに、見るからに高貴な感じの人が馬に乗り、家来を連れて近づいてきた。そして友勝を指さして、

「あの者はなぜあそこにいるのだ。あの魂はまだ死ぬには早いではないか」

「はい。あの者はまだまだ残された生があるのですが、水神の馬を借りたので、水神がいたずらをして魂を抜きました」

「水神がまたいたずらをしたか。叱っておかなければならないな。あの者を定まった姿に戻してやれ」

供の者は友勝のもとにより、

「あのお方は聖徳太子です。こうやって国中をまわっているのです。あなたをもとの姿に帰すので、ちょっと目をふさいでいなさい」

というと友勝の後ろに回り、背中を押した。友勝は目が覚めたような心地がして、気がつくと、大和川のほとりに立っていた。

                      終

御伽婢子・131

膾の精

大島藤五郎というものが、能登の国で浪人生活を送っていた。ことのほか膾が好きで、「山海の珍味あるとも、膾に勝もの無し」というのが口癖だった。

あるとき、友人5-6人と浜に行き、漁師から膾にする魚を籠に5つも買った。そして砂浜にむしろを敷き、膾を沢山作り、友達共々飯を食った。

大島が大きなどんぶりで膾を食っていると、喉につかえるようなものがある。咳をした吐き出したところ、大豆くらいの骨だった。その骨を茶碗に入れ、皿で蓋をし、大島はまた膾を食い始めた。まだ食事も終わらないとき、骨を入れた茶碗が勝手に倒れて、さっきの骨が、30センチくらいの大きさになって出てきた。そして、人の形に変わり、どんどん大きくなって、大の男になった。

みんなが驚きあきれていると、その男は大島に飛びかかった。それからは、組んずほぐれつの大げんかである。男の身は軽く、時にはトンボのように飛び回り、大島も刀を抜いて相手をした。

にわかに濃い霧が立ちこめ、喧嘩の音は聞こえるものの、友人達には、大島の姿も、男の姿も見えなくなった。ややあって、大島は男の腕に切りつけると、男はかき消すように消えて、霧も晴れた。大島が男の腕を切り落としたと思ったものは、大きな鰭であった。その鰭を友人達に見せたあと、大島は気絶した。

大島はやがて正気には返ったが、男と戦ったことは全く思い出せないという。きっと肴の精が出てきたのであろう。

                      終

これで、御伽婢子11巻は終わりです。あと12巻、13巻を残していますが、2-3日休みます。

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