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2009年10月15日 (木)

幽霊と契る

10月15日(木)

御伽婢子・111

幽霊と契る・1

上野の国、平井の城は上杉憲政の居城だった。

北條氏康がこれを破り、北條新六郎に城をまかせた。

城中にはひときわ美しい一間があった。壁には金銀をちりばめ、屏風や襖は花鳥草木の絵で飾っていた。庭には築山を施し、さまざまな石を集めて泉水を現し、春夏秋冬花の絶えることがない。

部屋は憲政の娘、弥子(いやこ)の為に作られたものである。見目かたち美しく、心たおやかに、情け深く、優しい娘で、彼女を見て心を動かされぬ者はなかった。

憲政は弥子を深く愛し、どのような高家に嫁がせて家門を上げようかと考えていた。しかるに、召し使っていた小姓、白石半内が弥子に懸想し、付け文をした。これが明るみに出て、半内は密かに首をはねられてしまった。

それから100日ばかりして、弥子がにわかにおびえだし、夜にはついに亡くなってしまった。定めて半内の亡霊によるものだろうと、人々は噂した。

新六郎はこの噂を聞き、そんな娘だったらぜひ会いたいものだ、たとへ幽霊だとて、逢って話しがしたい。今生の思い出になる、と思い詰めた。朝な夕な、香を焚き、花を手向け、恋慕の情をつのらせ祈った。

ある日の暮れ方、どこから来たのか女の子が来て、

「私のご主人はここに住んで居られましたが、あなたのお志に惹かれて、間もなくここに参ります」

といって消え失せた

暫くすると、馥郁とした香りがして、さっきの少女に手を引かれ、一人のたおやかな美女が築山の影から現れた。その美しさは、この世の人とも思えない。まるで天女が天下ったようだ。

これが聞き及んでいた弥子の幽霊かと思うと、新六郎は嬉しくてかなわない。たとへ幽霊だろうと、情に代わりはあるものか。契りを交わして思いを遂げよう、と、女の手を取って引き入れた。そして、夜を通して語り合い、抱き合った。

時の移るのは早い。また明日来るわ。暮れになるのを待ってね。女は帰ろうとして、一首詠んだ。

   底深き池におふてふみくりなは

       くるとは人に語りばしすな

そこの深い池に生える水草のように隠れて逢うのよ。私がここに来ることを、けして人に話さないでね。

そして女は庭に出たが、そのまま形は消え失せた。

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