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2009年10月 1日 (木)

金閣寺の幽霊と契る・4

10月1日(木)

御伽婢子・102

金閣寺の幽霊と契る・4

前回までのあらすじ 中原主水は26歳で独身。色好みである。主水はある春の宵、金閣寺で桜と月を愛でていた。そこへ美しい女性が現れて、自ら足利義満に仕えていた幽霊だと名乗る。二人は、誘い、誘われて一夜を共にする。次の日の夜も、主水は金閣寺のほとりに立っていると、また女が現れた。

二人は手を取り合い、涙ぐみながら語り合った。

「昨夜はあなたの愛情に感じて、夜を共にしたわ。なんで昼は嫌なの?」

「嫌じゃないさ。けれども、夜でなければ抱き合うことなんか出来ないでしょう」

「毎日夜を待っているのは切ないわ」

「それはそうだけれど、人目もあるからねえ」

それからは毎日、金閣寺のあたりで二人は逢い引きをした。20日くらいたってからは、昼も逢って語り合った。

主水は宮仕えの身である。毎日都に帰って、毎日金閣寺に通う。とうとうある雨の日に、女を連れて京の家に帰った。それからは、女はずっと京の家で過ごした。

女は、つつましく、分別があり、主水の親族にも気に入られ、召使いや出入りする者にまで優しく接した。隣の家の老婆まで、女を褒めそやした。針仕事は上手だし、書も文も人にすぐれ、何時も控えめで、主水はよい妻を得たと人々はうらやんだ。

こうして3年が過ぎた。7月15日、女が言う。

「召使いに私が住んでいた家の留守をさせています。あんまり長い間帰らないので、きっと待ちかねているわ。今日は金閣寺に行って、その後の様子を聞きたいの。あなたも一緒に行ってくださる?」

酒肴を調えて、主水と女は連れだって金閣寺へ出かけた。

すでに日は暮れ、月はさやかに東の峰から昇り、蓮は開き、柳は枝をたれて露を含み、竹は風にそよいでいる。

召使いが出てきて言う。

「あなたは人間世界に帰って、もう3年になります。あまりの楽しさに、ご自分の本当のお住まいをお忘れになったのですか?」

女は涙ながらに主水に告げた。

「あなたの深い愛情に甘えて、3年が過ぎてしまいました。月日のたつのは早いわね。何時まででも一緒にいたいのに、もうお別れしなくてはならないの。私はあの世の人間なのに、あなたと3年も過ごすことになったのは、前世でよほど深い縁があったんだわ。いまはもう、別れの時です。強いてこの世にとどまれば、あの世ではどんな罪が待っているか分かりません。それは、あなたをも苦しめることになるの。お別れしましょうね」

すでに鶏は朝を告げている。鐘の音も響いている。女は立ち上がり、蒔絵の箱に香炉を入れて主水に渡した。

「これは私の形見です」

女は泣きながら墓の方へ歩いていき、名残惜しそうに振り返ったように見えたが、そこで煙のように消え失せた。

                          続く

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