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2009年9月29日 (火)

金閣寺の幽霊と契る・2

9月29日(火)

御伽婢子・100

金閣寺の幽霊と契る・2

前回のあらすじ 中原主水(ナカハラモンド)は美男で風流を解する男だった。26歳になるが妻はなかった。ある宵、花や月を求めて金閣寺までやってきた。いまは荒れてしまった金閣寺の欄干に寄りかかり、昔を偲んでいた。

そこへ召使いを連れた17.8歳の女性がやってきた。緑の黒髪に美しい眉、たおやかな姿、まことにあでやかで形容する言葉もない。一体何事だろうとこっそり見ていると、女は何かつぶやいている。

「金閣寺ばかりは昔と変わらないし、庭の風景も同じだ。しかし、時は移り、世は変わってしまった。昔のことばかりなつかしく思い続けているのが悲しい」

そして、僧正遍照の古歌を口ずさんだ。

   あるじなき住かに残る桜ばな

      あはれむかしの春や恋しき

主水はこの歌に心を打たれ、

   さく花にむかしを思ふ君はたぞ

      今宵は我ぞあるじなるもの

咲く花に昔を偲んでいるあなたはどなたですか、今宵は私があるじなんですよ、と返歌した。

女は驚く様子もなく、

「あなたがここにおいでなのを知って、私はやってきたのです」

という。これはなんとしたことだろうかと思って聞いてみた。

「お名前は、なんと言われますか?」

「私は人間をやめて久しいのです。これを言えば、あなたはきっと、驚き怖れることでしょう」

主水は、それなら樹の木霊の精か、狐か、それとも幽霊かと思ったが、女があまりに美しいので、怖れる気持ちは起こらなかった。

「いいえ、怖くはありません。ですから、本当のことを教えてください」

「私は畑山氏の出です。昔足利義満公が金閣寺を建ててここに引きこもったとき、宮仕えをした者です。私は20歳で死んでしまい、義満公は憐れんで、この近くに私を埋めてくれました。今夜は追善供養のため、義満公の御母君のもとへ行って参りました」

そう言うと女は召使いに命じて、むしろと敷物を敷かせ、金閣寺の庇に向かって座る。今夜の花や月を愛でましょう、と酒や菓子を取り出し、主水と共に数杯を傾けた。

                          続く

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コメント

やはり、ご旅行でしたか。
それも那須と福島 浄土平には20代新潟から行き、懐かしい
です。紅葉がきれいで、いい景色だったことだけ記憶に
後は思い出せませんが
娘さん、お近くへいらっしゃるそうで、良かった出すね。
お孫さんにも、お会いできる機会が増えますね。happy01

投稿: 五十路 | 2009年9月30日 (水) 09時23分

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