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2009年8月11日 (火)

無駄は無駄ではない 死んでからも愛し合う・1

8月11日(火)

いつも書くことだけれど、私は、やらなければならないことはやりたくないし、やらなくても良いことはやりたくなる。小学生のころからそんな性格でした。勉強は嫌いではなかったと思いたいのですが、学校の勉強はしたくありませんでした。

いつかも書いたと思うけれど、中学3年の夏休み、岩波文庫の「哲学史」上下2巻を買ってきて、ノートをとりながら読みました。今読んだって分かりっこないものを、当時の私に分かるはずがないのです。そんなことをしたって、別段学校の成績が上がるわけではないし、無駄と言えば無駄なんです。

でも、「哲学史」を読んだことは、その後なにかと役に立つことがありました。読んだことが財産になったんです。たとえば読んでいる本の中で、「スコラ哲学」なんて言葉が出てきても、ははあ、なんて思うわけです。「弁証法」なんて言葉を見ると、ソクラテスやヘーゲルやマルクスを思うわけです。どの弁証法だ、なんてね。

なーに、今だって分かりゃあしないよ。感じるわけだ、なんとなく。

と、まあ、大層なことを書いたけれど、何のことはない、今日は掃除をしたのです。家事の中で、一番したくないのは掃除で、1日のばしにしていて、埃が目立ってきて、どうにもならなくなって掃除をするのです。

そして、やらなければならないことはやりたくなくて、やらなくても良いことはやりたがる自分の性格を、再確認したわけです。

掃除は、やらなければならないことでした。やらなくても良いこととは、たとえば今日これから書く「御伽婢子」の現代語訳です。こんなもの誰に頼まれたわけでもないし、誤訳、珍訳何でもありの現代語訳なんて、わざわざ下調べまでしてやるなんて、時間も労力も、無駄のようなものです。

まあ、しかし、ここで私は居直るのです。人生は、無駄も含めて人生である。無駄のない人生なんて、山葵の効かない刺身みたいなものだ。どんな無駄をしているかと言うことで、その人の人間性が分かる場合だってある。それに、大きな意味で言えば、無駄というのは、本当は無駄ではないのだ。なんてね。

御伽婢子・72

死んでからも愛し合う・1

奈良に桜田源吾という者がいた。25歳になるが独身で、父母は既に亡く、独りで住んでいた。源吾には津田長兵衛という伯父がいて、伯父もまた源吾と同じ歳の子供を持っていた。彦八である。源吾と彦八は仲がよかった。

あるとき、源吾は東大寺に詣で、帰りに猿沢の池にさしかかった。見ると美しい籠が池の縁に泊めてあり、中から白い手を伸ばし、幾分赤みを帯びた指で鯉に餌をやっている。

源吾が立ち止まると、女は乗り物の戸を開いて源吾を見た。なかなかの美人である。やがて女はお付きの者に籠を担がせて立ち去った。源吾はそれとなく後を附いていくと、3条通りの筒井という者の家に入った。

源吾は娘のことが気になって、いろいろと手ずるを求め、その様子を調べると、幸いなことに、娘の乳母は源吾の知っている人だった。娘の父は河内の戦で討ち死にし、母ひとり、子ひとりであるという。

源吾は乳母に、二人の仲を取り持ってくれるように頼んだ。源吾は美男子であるし、金持ちでもある。それを知っている乳母は、快く引き受けてくれた。

源吾は、

   いさり火のほのみてしより衣手に

         磯辺のなみのよせぬ日ぞなき

「一目見てから忘れられません」といった意味の歌を書いて、乳母に持たせた。娘はその書き付けを乳母から受け取ると、顔を赤らめて、袂に入れた。

ところで、その娘のことを、伯父の津田長兵衛が聞き知り、彦八の嫁にしたいと、正式に仲人を立てて申し込んだ。津田も武門の末で、立派な人なので、娘の母は、彦八と結婚させることとした。

娘は鬱々として楽しまず、乳母には、

「源吾さんのところに行きたいわ。それが出来ないなら死んだ方がまし」

と言ったきり食事もとらず、薬も飲まない。乳母に聞いて、始めて事情を知った母は、何とか娘を助けたいと考えた。そこで乳母と心を合わせ、源吾と娘を駆け落ちさせることに決めた。

源吾は大いに喜び、娘と乳母を連れて、郡山と言うところに隠れ住んだ。

         

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