暢気な話(蚊柱) 長生きの仙人・2
7月21日(火)
精障者作業所Mへ。
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いろいろなことがありますね。今日、衆議院解散。明日、皆既日食。先日、北海道の大雪山系の山の縦走で大勢の遭難者。今日、山口県で土砂崩れによる死者の出る被害。
山仲間のSさん。遭難者の出た同じコースを、その4日前に縦走をしたンだって。やはり天候不順で大変だったそうです。今度の事故は、ガイドの責任が大きいと思うけれど、山には危険がつきものであることをあらためて認識。
この4-5日、大きなニュースが幾つも伝えられたけれど、ぼんくらカエルらしく、暢気な話をします。
あれは6月だったか7月だったか、梅雨の合間に大菩薩嶺に行きました。長い雨の後でやっと晴れた日だったためなのか、ものすごい量の蚊が発生していました。登る人、降りる人、登山者の誰の頭の上にも、蚊柱が付いていました。顔と言わず、首と言わず、手と言わず、いたるところに蚊が襲いかかります。血を吸うわけではないのだけれど、煩わしいことこのうえもありません。登山者がすれ違うときには、蚊柱同士のすれ違いでもありました。すれ違う人は口々に、
「私の蚊柱を持っていってください」
「こちらこそ蚊柱を差し上げます」
などと、挨拶代わりに言いながらの登山でした。自分の頭の上に蚊柱を背負うなどと言うことは、田舎で育った少年時代にも、何度も経験しています。しかし、あれほどの蚊柱というのは、後にも先にも、あのときだけです。
その後しばらくは、山行のさい必ず虫除けスプレーを持ち歩きました。
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御伽婢子・57
長生きの仙人・2
前回のあらすじ 阿波の国の城主里見義広に会いに来た岩田刀自という老人は、数百年を生きているらしい。山中で修行していた岩田に仙人がきて薬を与え、「鶴や亀はいつも静かに呼吸しているから長生きだ」などと、仙人になる道を教える。
「人間には気持ちの乱れがあり、気候は一定しない。色情にふけり、食い意地をはる。そのために諸病が起こり、悲しみが生まれる。だから100歳まで生きる者はほとんどいない。人間のすることは、飛んで火にいる夏の虫のようだ。小さい胸の内に妄執を抱き、怒り、悲しみ、妬む。そんな気持ちをはなれれば、本当の自由を得られる」
仙人の教えはそのようなものだった。以来仙人の教えを守り、山に籠もり、松の葉を食べ、石をこねて塗り薬を作り、霜を煮て飴を作った。穀物は長く食べたことがないが、飢えたりはしない。松風や月、滝やせせらぎを慰めとして、欲を去り怒りを去った。
義広は感心して尋ねた。
「私も仙術に努めればあなたのようになれますか?」
「心を静かに保ち、色情をはなれ、欲を去り、悲しいことにも楽しいことにも心を動かされず、徳を施していれば、天地の恵みにかなって長生きするようになるでしょう。声をみだりに出さず、あまりものを見ないで、むやみに聞こうとしないで、体もあまり使わないこと。行くことも立つことも寝ることも、みだりに行ってはいけない」
「それでは、人間のすることはみんな害があるみたいじゃないですか。そんなことをして長生きしても意味がないでしょう。ここに用意した料理をどうぞ食べてください」
と義広がすすめたが、岩田刀自はなにも食べない。ただ、酒だけはよく飲んだ。それなのに、少しも酔った景色がない。刀自の格好がおかしいと言って女房たちが笑ったが、刀自が指を差したところ、皆おばあさんになってしまった。女房たちは驚いて、涙を流して詫びたところ、刀自はまた指を差して、もとの姿に戻した。
義広は怒って、刀自を殺そうとしたが、刀自はすぐそれを悟って、座を立ち、かき消えてしまった。
義広は間もなく北條氏康に滅ぼされてしまった。
終わり
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