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2008年8月30日 (土)

死後の烈女・1

8月30日(金)

死後の烈女・1(狗波利子・通算75回)

    原作・浅井了意  現代語訳・ぼんくらカエル

福島角左衛門は、姫路の人間である。長いあいだ主を持たずにいた。豊臣秀吉に仕える福島左衛門太夫が知り合いなので、その口利きで秀吉に取り立ててもらおうと思い、故郷をでて都に向かった。

明石、兵庫の浦を過ぎ、尼崎に出て、ようやく津の国、高槻のあたりに来た。すると、しきりに喉が渇く。見ると道ばたに小さな家があり、女が1人、道に向けて開けられた窓の明かりを頼りに、せっせと足袋を縫っている。こんな田舎には珍しい美人である。

角左衛門が湯水を求めると、女は隣の家からお茶をもらってきて、角左衛門に与えた。角左衛門が家の中を見まわしたところ、台所や竈がない。

「この家では火を使わないのですか?」

「うちは貧しくて、ご飯を炊くことが出来ない。近くの人に雇われてその日その日を送っている。まことに情けない暮らしです」

と言いながら、女は手を休めることなく足袋を縫っている。美しく、優しさに溢れた姿に角左衛門は心を動かされ、女の手を取り、

「あなたのような方が、こんな田舎で貧しく暮らしているのは気の毒です。私と一緒に都に行きませんか。悪いようにはしませんよ」

女は汚らわしいというように手を振り払って、返事もしない。しばらくして、

「私には籐内という夫があります。布を商う人で、今は商売のため遠くに行っていますが、私はここにとどまり、舅や姑に孝養をしている。貧しいながら仕事をし、舅姑が飢えや寒さを感じないように心を尽くしているのです。明日は久しぶりに夫が帰ってきます。あなたは早く立ち去ってください」

角左衛門はその女の貞節を感じ、大いに恥じ入った。そして従僕に持たせた食料入れの箱を開き、餅と果物を女に与えて立ち去った。

                        続く

 

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