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2008年8月 2日 (土)

塩田平九郎怪異を見る・5

8月2日(土)

塩田平九郎怪異を見る・5(狗波利子・通算52回)

(前回までのあらすじ・落城する城から1人落ち延びた塩田平九郎は、髪を切って修行の旅をする。18年ぶりに帰った城跡近くのあばら屋で、不思議な者たちが話しあっているのを聞く)

やがて一人が言った。世の移り変わりや武田勝頼の愚かさなど、今さら話してみてもしょうがない。我々の心を述べて、自らを慰めようではないか。

そうだねと言って、色が白く丸顔の者が詩を吟じた。

     高く低く柄を持てば月ひとつ

     応えて動き涼風を興す

     愉しんだものは捨てられて土に埋められる

     皮は爛れ骨は腐り苦しんでいる

細身でえくぼのある者も詩を吟じた。

     その昔龍吟の調べを得意とす

     一曲の声は飛んで空を渡る

     今は庭の中の破れた竹

     林の騒ぐ音を聞くのみ

もう1人も吟詠する。その身は太って背は低い。髪や髭はたれて乱れている。

     しきりに埃を掃いてさらにいとまなし

     憂いを抱いて疲れ髪も髭も失う

     今は憔悴して荒れ果てた村の客のごとし

     短く朽ち衰えて垣に身を寄せる

平九郎はつくずくと聞いて、懐旧の心はあり、それなりの訳のある者たちだろうと思う。座り直して念仏を唱えたところ、一同は雪のように消え失せた。

夜が明けてからあばら屋を出て近くの家に立ち寄り、昨夜の出来事を話した。すると、

「あの家には人が住んでいない。時々話し声が聞こえ、笑っているような声が聞こえることはある。狐か狸の仕業と思うが、他の家に悪さをすることはない」

平九郎は昨夜の人々が、大して上手くはないが一首ずつ詩を作ったことなどを話した。

話を聞いた主は、何人かの若い者と共にそのあばら屋の中を探してみると、破れた団扇と、割れた笛、ちびた箒が出てきた。詩の心もこれだったのだろう。焼き捨てるわけにもいくまいと言うことで、離れた山際に、一緒に埋めた。

それ以後は、怪しげなことも起こらなくなったと言うことだ。

                           終わり

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