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2007年6月 3日 (日)

影隠し地蔵縁起 10

6月3日

影隠し地蔵縁起 10 ーー風は見ていた

首塚 1

ある時は強く、ある時は弱く、風はいつも村を巡っていた。風が吹くときも止むときも、時は休まず過ぎてよく。

いつの代も、人は争うのであろうか。このときもまた、長い戦が続いていた。まず、鎌倉幕府を倒すべく、新田義貞(にったよしさだ)と、足利尊氏(あしかがたかうじ)が兵を挙げた。力を合わせて鎌倉幕府を倒すと、またしても内部争うがはじまった。新田義貞と、足利尊氏が戦いを始めたのである。

戦いは、いくつもの勝ち負けをくり返した後、新田義貞が討たれ、足利尊氏の勝利に終わった。しかしそれで新田が完全に滅びたのではなく、義貞に子、義興(よしおき)、義宗(よしむね)の兄弟は、なおも足利氏と戦っていた、まだ関東にかなりの勢力を持っていたのである。

足利氏は京都の室町に幕府を開いたが、新田氏を押さえる関東の守りとして、尊氏の子、基氏(もとうじ)を鎌倉御所に置いた。基氏は、一時期、奥州道に通ずる二瘤村に御所を移した。その基氏の首をねらって、義興の弟義宗は、密かに村に隠れ、村の娘おときと共に住んでいた。

そのよしむねのもとに、兄、義興が多摩川の矢口渡でだまし討ちにあった、という知らせが飛び込んできた。基氏に見せるため、人足がその首を持って二瘤村の御所に来るという。あまりのことに落胆やるかたない義宗だったが、せめてその首を取り返したいと思った。そこで人足の来る頃を見計らって、義宗は、影隠し地蔵の後ろに隠れた。影隠し地蔵が、人の姿も影も隠すことを、義宗はおときに聞いて知っていた。

義宗は、通りかかる二人の人足に声をかけた。

「そこの二人、その首を置いていけ」

人足は立ち止まって、お互いを見た。

「何か言ったか?」

一人の人足が、もう一人の人足に聞いた。

「いや、何も言わない」

「そうか。しかし、何か声がしたな」

「ああ、そんな気がする」

「そこの二人、その首を置いていけ」

義宗は、もう一度声をかけた。

「なに? 首を置いて行けだと?だれだ? どこに隠れている」

「出てこい!誰だ」

二人はそこら中を見まわした。清水八幡神社の祠の中や、縁の下、そして影隠し地蔵の後ろも確かめた。

「誰もいないではないか」

「誰もいはしない。いるのは地蔵ばかりよ」

「まさか地蔵でもあるまい……空耳か……」

その2人に、またも声が聞こえた。

「首を置いて行けと言うのが分からぬか!」

二人は思わず顔を見合わせた。

「ひえー、地蔵だ!」

次の瞬間、二人は義興の首を放り出して、一目散に逃げていった。

義興はその首を持ち帰り、おときにも手伝わせて、近くの林に埋め、ケヤキの苗木を植えて目印とした。

                                              続く

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