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2007年6月 1日 (金)

影隠し地蔵縁起 8

6月1日

影隠し地蔵縁起 7 ーー風は見ていた

義高と大姫 2

頼朝が義高を殺そうとしていることを知った大姫は、そのことを義高に告げた。義高は夜陰に乗じて、密かに屋敷を抜け出し、奥州へ向けて逃げていった。子どもとはいえ義高は、すでに馬に乗る術は知っていた。夜の間に鎌倉をぬけ、奥州道をひた走り、次の日の夕方には、二瘤村までたどりついていた。

義高の逃亡を知った頼朝は、翌朝、家臣二人を、追っ手として差し向けた。その追っ手もまた、義高の姿が見え隠れするところまで迫っていた。馬術に長じていたとは言っても、やはり子どもである、二瘤村に着く頃には、馬も人も疲れ果てていた。二瘤川を渡って山の中に逃げ込めば、なんとか身を隠すところもあろう。しかし、追っ手は蹄の音が聞こえるほど近くまで迫っている。一刻の猶予もない。とても二瘤川の浅瀬を探すほどの時間はなかった。

二瘤村をぬけ、広場にさしかかったところで、義高は馬を下り、手綱を放し、馬を河原に向けて追いやった。そしてお地蔵様に水を供えている農婦に尋ねた。

「追われています。隠れる場所を教えてください」

「それなら、このお地蔵様の陰がいいだ。昔から身隠し地蔵と言って、逃げる人を隠してくれるお地蔵様だで」

言われて義高は、身隠し地蔵の陰に、かろうじて身を隠した。

夕日が長い影を作っている。春とはいえ、強い風が肌に寒く、砂埃をあげていた。

追っ手たちはすぐにその場にやってきた。そして、農婦を見つけていった。

「そこの女、十二、三歳くらいの子どもが、馬に乗って今ここを通ったであろう。どちらへ行った?」

「おら、なにも見なかっただ」

「見ないはずはあるまい、たった今ここを通ったはずだ」

「おらも、たった今ここさ来たばかりだで、なにも気づかなかっただ」

「なにも気がつかなかっただと。もうよい。あっちへ行け。ぼんやり者めが!」

追っ手は、河原にいる馬を見つけた。

「あれは義高の馬だ。馬がいる以上は、この近くにいることは間違いない。川を渡った様子はないし、どこかにひそんでいるはずだ」

「しかしこの広場とあの河原だ。隠れる場所とてないではないか。あるとすれば、何本かの木と、そこの地蔵の後ろくらいなもだ」

追っ手たちは、木の後ろを見、地蔵の後ろを見、念のため木の上も見たが、どこにも人影は見えなかった。

「なんということだ。先ほどまで、姿が見え隠れしていたのに、こんなところで見失うとは……。仕方がない。引き返して、この近くの家をしらみつぶしに当たってみるか」

「待て、これはなんだ。地蔵に後ろに、影がもう一つあるぞ……」

「そんな馬鹿な、一つの地蔵に二つの影などと……ん?……確かに……、ならば、切ってみるまでよ」

一人の追っ手が、地蔵の後ろの二つ目の影の出所をめがけて斬りつけた。

「あっ!」

悲鳴を上げて倒れたのは、まさに義高であった。

身隠し地蔵は義高の血しぶきを浴びて、みるみる赤く染まっていった。そしてその顔は憤怒の形相となり、身に浴びた血は炎となって燃え上がった。その火は、瞬く間に、地蔵自身をも燃やし尽くしてしまった。

風は怪しく吹き募り、はげしい雷鳴と共に雨を呼び寄せた。そして、地蔵の燃えがらも、義高の死骸も、血しぶきも、何もかも二瘤川に流し込んでしまった。

                                              続く

ぼんくら日記

特養S。訪問。

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