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2007年5月25日 (金)

影隠し地蔵縁起 1

5月25日

影隠し地蔵縁起ーー風は見ていた

プロローグ

慎君は初めて、一人で二瘤山にハイキングに来ました。二瘤山は、慎君の家から電車で3つほど行った駅で降りて、登る山です。お父さんに何度も連れて行ってもらっているので、道順はしっかり覚えています。みんなそれを知っているので、慎君が一人で行きたいと言ったとき、誰も反対しませんでした。お母さんは大きめのお握りを2個作って、水筒やゆで卵と一緒に、リュックに詰めてくれました。だから慎君は、大張り切りで二瘤山に来たのです。

二瘤山の頂上は2つに分かれていて、ふもとから見ると、それが2つのたん瘤のように見えます。慎君はその両方に登りました。疲れたけれど、頑張ったのです。2つ目のたん瘤の上で食べたお握りのおいしさと言ったら、これまで食べたお握りの中で、一番おいしかったのです。もしお母さんがお握りを3つ作ってくれたら、きっと、3つとも食べたに違いありません。

お天気はいいし、汗をかいている体に、ちょうどいいくらいの穏やかな風は吹いているし、慎君はとても幸せな気持ちでした。思わず、

「ハッピーだぜ」

と言ってしまったほどです。

頂上で充分休んでから、慎君は山を降りはじめました。鼻歌でも歌いたい気分です。でも、山道を歩きながら歌をうたうと、息が切れるので、小さな声で少しだけ歌いました。

さっきから小さな鳥が一羽、慎君の前にいるのに気がつきました。慎君の10メートルくらい前に止まっていて、慎君が近づくと、ちょっと飛び立って、また10メートルくらい前に止まります。ずっと同じことをくり返しているのです。まるで慎君の道案内をしているようです。しばらくは小鳥のあとをついて歩きました。

やがて道は、明るい雑木林を抜けて、杉林の中に入っていきました。さっきまでさわさわと吹いていたやわらかい風が止み、どこからか、谷川の水の流れる音が聞こえてきます。杉の根本が濡れて、しゃがの花が咲いています。

慎君は、ずいぶん長い間、山を降り続けていることに気がつきました。さっきまでいた小鳥も、いつの間にかいなくなりました。これだけ歩けば、とうに麓に着いているはずです。どこかで道を間違えたのかも知れません。なんだか不安になってきました。

でも、道を間違えたにしても、山を降りている限りは、いずれ麓に着くはずです。こんなに降りが続いたのだから、いくら何でも、もう麓は近いはずだと思って歩いていると、うっかり木の根につまずいて、転んでしまいました。

その時です。さっと風が吹いて、声が聞こえました。

「慎君。良くここまで降りてきたね。君は千年以上も昔まで降りてきたんだよ」

「え? 誰? 誰かいるの? 千年以上昔って何のこと?」

「誰もいないさ。私は風さ。誰にも姿は見えないよ」

「風? 風が話すの?」

「そうさ、私は風さ。二瘤山の麓を巡っている、私は風さ。そして、君も今風になったんだ。さっき転んだときにね」

「ぼくが風になった?」

「そうだよ。だから君の姿は、もう誰にも見えやしない。君が考えていた通り、すぐそこが麓だ。麓の村がある。その村のはずれには、お地蔵様が立っている。そのお地蔵様にまつわる話を君に見てもらおうと思って、風になってもらったんだ。これから千年で何が起きるか、ぜひ見てくれたまえ。ほら、すぐ下に川が見えるだろう。川の向こうに原っぱが見えるよね。そして、そこに人が何人も集まっているよね。まず、あそこから見てもらおうか」

                                                   続く

ぼんくら日記 

終日雨。

彩の会(水彩画の会)。このところ、風景画の中に、子どもと犬を入れるようにしている。今日は、木登りをしている子ども2人と、下から見上げる母と犬の絵。

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