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2007年5月28日 (月)

影隠し地蔵縁起 4

5月28日

影隠し地蔵縁起 4 ーー風は見ていた

源吉の話 3

その日その日の空腹を、山の幸、川の幸で満たしながら、三人はやがて収穫の時を迎えた。ソバはよくできたが、里芋の方は芳しくなかった。木の多いところは開墾することが出来ず、木の少ないところを開墾したのだが、そんなところは石ころが多いのだった。切り開いた畑は、もともと里芋には向かない畑であった。種芋を残せば、収穫は三人の一食分にもならないほどだ。しかし山芋はあった。近くの丘や二瘤山の斜面から、源吉たちは沢山の山芋を掘り出した。

その山芋と里芋で、三人は芋煮会をした。季節はもう秋である。よく晴れた日で、木々の葉は、赤や黄に色づきはじめ、静かに風が吹いていた。三人は畑の脇にに石を積んで竈とし、鍋をかけ、里芋と、里芋の不足を補うための山芋と、その日のために採ってきていた山菜を混ぜ、ごった煮にした。

三人は、それぞれの幸せをかみしめていた。確かにこの土地は豊かな土地で、川魚が捕れ、山菜が採れ、野ウサギなども捕れるのである。食に困ると言うことはなさそうだ。

源吉には、この土地で百姓をやれるという自信が出来た。ソバはよくできたし、野菜も出来た。三人で力を合わせれば、そのうち水田も開けるだろう。

一方春光とせつ子は、源吉という頼りになる仲間が出来たことを、なによりも心強く感じていた。二人で、慣れない田舎暮らしが出来るのか不安だったが、源吉がいてくれるので、それが出来るように思えるのだ。

あるかなしかの風に吹かれて秋の陽射しを浴びながら、三人が少し華やいだ気持ちで芋を食べていると、遠くの方で、

「おーい」

と呼ぶ声がする。三人が生活を始めてから、人が通ることの無かった土地である。三人は思わず顔を見合わせ、立ち上がって声の方を見た。誰かがこちらに近づいてくる。どうやら若い女のようだ。

「おーい」

女がもう一度声を上げた。次の瞬間、源吉がぴくんと跳び上がった。

「おしげだ!」

源吉が走り出した。

「源吉!」

女も走り出した。

源吉は、もともとおしげが好きだったのだ。そのおしげが訪ねてきてくれたのだから、嬉しいの何のと言ったらない。

「おしげ、来ただか」

「来ただよ、源吉」

「来ただか」

「来ただよ」

「おしげ、今日はな、初めて穫れた芋を食ってるだ。おしげも食えよ」

「芋が穫れただか」

「芋が穫れただよ」

源吉が自分の椀をおしげに渡そうとした。

「おら、自分の椀を持って来ただよ」

「持って来ただか」

「持って来ただ」

おしげは自分の荷物の中から、椀を取りだした。おしげの荷物の中に種籾や、野菜の種があることを、源吉は見逃さなかった。おしげは、一緒に住むために来てくれたのだと源吉は思った。源吉は何か言わなければならないような気がした。しかし、何を言えばいいのか分からなかった。

「おら……、おら……一生懸命働くで……、おら、一生懸命働くで……」

源吉の口から絞り出すような声が出た。それが源吉のプロポーズだった。

「おらも手伝うだよ」

それがおしげの答えだった。

二人の様子をほほえみながら見ていた春光とせつ子は、お互いに目配せをして、自分たちの小屋に入っていった。

秋の夕焼けの下で、静かな風に、木々がわずかにそよいでいた。

                                               続く

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