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2007年5月26日 (土)

影隠し地蔵縁起 2

5月26日

影隠し地蔵縁起 2ーー風は見ていた

源爺の話 1

二瘤山の木々の間をさまよっていた風が、麓におり、二瘤川を渡って、村の広場の辺りを吹いていた。草木は若葉に輝き、田植えを終わった水田には、苗が行儀良く並んでいた。さわさわと広場の上を吹きながら、風は人々の話を聞いていた。広場の様子を見ていた。

広場には、20人くらいの大人と、大人より多いくらいの子どもたちがいた。大人たちは、ござの上に輪になって座っている。輪の真ん中には鍋がすえられ、野菜や野ウサギの肉が、ぐずぐずと煮えていた。わずかばかりだが、酒も用意されているようだ。子どもたちは、大人の膝に乗ったり、背中にもたれかかったり、近くの木を揺すったり、その枝にぶら下がったり、それぞれ、思い思いに動き回っている。落ち葉や石をはがして、虫を見つけようとしている者もいる。

広場の端には、木で作られた、真新しい地蔵が立っていた。

「まずは、源爺の作ったお地蔵様に魂を入れてもらいましょう。旅のお坊様、お経をお願いします。源爺、お地蔵様に目を入れてください」

広場の中心にいたひときわ大柄の男が言った。源爺の子どもである。源爺と呼ばれたのは、源吉という名の老人だ。村の最長老なので、みんなに源爺と呼ばれている。村人が皆源爺と呼ぶので、彼の息子もまた、自分の父を源爺と呼んでいた。源爺は歳をとってはいるものの、がっちりした体つきで、手足なども太く、まだまだ元気そうに見えた。

「お坊様、お経をお願いします」

さっきの男が言った。

広場に集まった人々の間に、旅の坊さんが混ざっていたようだ。粗末な、薄汚れた衣を着た坊さんが進み出て、木で作られた、新しい地蔵のまえで、お経を読み始めた。

源爺はいくらか曲がった腰を伸ばして、お地蔵様の目にノミを当てた。

「さて、お地蔵様に魂が入ったところで、願爺、どうしてこのお地蔵様を作ったのか、そのわけを聞かせてください」

また、例の男が話しかけた。

「うん、そうさな。せっかくだから話しておこう。この村に始まりから話さなくてはならんな」

おもむろに源爺は話し始めた。

「そうさな……何年前になるか、忘れるくらい昔のことだ。わしの生まれた村は、山を幾つも越えた向こうにあったんじゃ。ある時……そうじゃ、あれは18になったばかりのときじゃ。村祭りにやってきた旅のものから、ここから幾つも山を越えて、2日ばかり歩いたところに、瘤が二つ並んでいるような山がある。その麓に、田んぼや畑を作るのにいい土地があると聞いたんじゃ。山があって、大きな川があって、野原があって、まだ誰も住んではおらんと言うことじゃった。わしは貧しい百姓な三男だったから、いずれ家を出なければならん。そんなところがあるなら、そこへ行こうと思ったんじゃ。次の年の春になるのを待ちかねて、わしは一人で村を出たんじゃ」

「貧しい百姓では、次男や三男に分けてやるほど田畑はないものなあ」

源爺のせがれが相づちを打った。

「そうじゃ。わしはいずれ村を出なくてはならんと思っていたから、前もって、鍬や、なたや、鎌を用意していたんじゃ。それに鍋もな。家を出るまえに、幼なじみのおしげにだけは告げようと思ったが、なんだか言いづらくて、黙って出てきてしまった。親からは、当座の食べ物と、種芋や、そばの種、野菜の種などをもらって、家を出たんじゃ」

「おしげというのは、この前亡くなった、俺のおっかあのことだね」

「そうじゃ。だが、そう話の腰を折らんで、黙って聞けや」

源爺は話を続けた。それはおおよそ、次のような話だった。

                                                 続く

ぼんくら日記

つばさ会、6月、投句。

山楽会、夏の山行予定。班長会で決めるのだが、腹案として、木曽御嶽山の資料を集める。地図を買いに、川越紀伊国屋へ。

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