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2007年5月30日 (水)

影隠し地蔵縁起 6

5月30日

影隠し地蔵縁起 6 ーー風は見ていた

源爺の話 5

そのクスノキに取りかかる前に、二人はまず、まわりの藪を払うことにした。そうしなければ作業がしにくいのである。さらに、下の方の大枝を、払えるだけは払うことにした。払った藪や枝も、無駄には出来ない。薪などにするのである。しかし、藪を払ったり、大枝を切り落としたりするだけでも、大変な仕事である。

二人がその作業に熱中していると、ざわざわと藪の揺れる音がして、向こうからおしげの叫ぶ声が聞こえた。

「春光さん! 源吉! どこにいるだ!」

「おーい、ここだ、どうしただ」

通り抜ける冷たい風と共に、おしげが姿を現した。

「おしげ、どうしただ?」

「大変だ! せつ子さんが連れて行かれただ!」

「なんだって!」

おしげの話は、次のようなものだった。

おしげとせつ子は、春光と源吉が出かけたあと、二瘤山に山菜を採りに行った。昼をだいぶ過ぎた頃、二人が帰ってくると、家の前に、侍らしい二人連れが立っていた。侍が、なんでまあこんな所までやってきたのだろうと、おしげは思った。しかし、二人を見たせつ子は、山菜を放り出して逃げ出したのだった。けれども、すぐに男たちに掴まってしまった。何がなんだか分からずに呆然としているおしげに向かって、侍の一人が言った。

「そこの女。せつ子様は親方様の所に連れ帰る。春光に言っておけ。親方様のお情けで、おまえの命までは奪わない、とな」

そして侍たちは、春光の名を呼ぶせつ子を、無理やり連れ去ったという。

おしげは、このことを少しも早く知らせようとして、木を切る音をたよりにやってきたのだった。おしげの話を皆まで聞かずに、春光はかけだしていった。ただ立ちつくすだけの源吉とおしげに、風は冷たく吹き募り、木の葉が、くるくるとまわりながら散っていた。もう、冬が来ていた。

「春光さんにもせつ子さんにも、それっきり会っていない。噂も聞かねえだ。今はこの村に住む人も増えた。春光さんが造ろうとして造れなかったお地蔵様を、わしはどうしても造りたかったんじゃ……あのときのクスノキを使ってな。あのときと違って、今はノコギリもあるし、春光さんほどではなくても、わしだって造れないもんでも無かんべえと思ってな」

「そうだったのか。源爺がお地蔵様を造りたかった訳がよく分かっただ。……ところで、このお地蔵様に名前を付けるのかね」

「うん、それだが、このお地蔵様には、村の人を守ってもらいたいだ。せつ子さんのこともあるだで、特に、追われるものが身を守ることが出来るように、後ろに隠れたら姿を見えないようにしてもらいたいと願いながら、彫り上げたんじゃよ。『身隠し地蔵』というのはどうだべか」

「『身隠し地蔵か』か、うーん……源爺がそう言う願いで造ったんなら、それでいいだんべえなあ。なあ、みんな」

みんながそれに同意すると、源爺の息子が、お地蔵様に向かっていった。

「お地蔵様、聞いての通りだ。是非とも逃げる人の姿を隠してくださいよ。そして村人を守ってください」

暖かい陽ざしの中で、心地よい風に吹かれながら、源爺たちは、ふんわりと酒に酔っていた。供えられた酒を飲んだのか、夕日に照らされたせいなのか、身隠し地蔵のほほも、ほんのりと赤かった。

                                              続く

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