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2006年11月25日 (土)

かまくら伝説6

かまくら伝説 6

かまくらと鎌倉

 気がつくと、慎くんは大きなカシの木の下にたっていました。隣には、みのを被ったあの不思議な少年がいます。

「慎くん『よんじゃめぐり』の意味は分かっただろう」

「うん『用心めぐり』だよね」

「『かまくら』の意味はどうだい」

「それは分からない」

「分からないかなあ。さっきほこらの中にいたのは、源氏の武将たちだよね。その源氏は、後に鎌倉を本拠地にしたんだよ。だから雪のほこらを『かまくら』って言うようになったのさ」

「ふーん、そうなの。……ところで、君は誰なの?」

「ぼくかい。ぼくはぼくさ。そんなことより、君はお父さんの所へ帰らなくちゃいけない」

 はげしい雪の中で、慎くんは少しからだが浮き上がったように思いました。そのとき、雪のほこらをまわる道太が見えました。そして、不思議な少年が、道太に吸い込まれていくのを、見たように思いました。

 雪が降ります。あたり一面を白いもやにして、雪が降りつのります。

「やあ、遅くなってごめんよ」

 不意にお父さんの声がします。振り返ると、お父さんがかまくらから出てきたところです。

「いやあ、子どもたちにもう1杯どうぞなんて言われて、つい甘酒を2杯も飲んじゃった。待ちどうしかっただろう」

「お父さんごめんなさい。長い間いなくなったりして……」

「え?」

「ぼくは道太の中に入っていたんだ」

「ドウタ? なんだいドウタって?」

「雪みのを着た子どもが来てね、それで……」

「雪みのを着た子どもだって? 昔はそういう子どももいたけれど、今はいないよ。まるで夢を見ているようじゃないか」

 慎くんは辺りを見まわしました。まわりの景色も人も、慎くんが不思議な少年に会う前と同じです。本当に夢を見ていたのでしょうか? それも、お父さんがたった2杯の甘酒を飲む間に……。

 慎くんが不思議に思っていると、遠くから歌声が聞こえます。道太の声です。慎くんは目を輝かせて言いました。

「お父さん、ほら、道太がうたっているよ」

「歌? 聞こえないねえ」

 お父さんは首を傾けて言いました。でも、慎くんには、かすかに、しかしはっきりと、道太の歌が聞こえるのです。

  用心めぐり

  用心めぐり

  寒鍋かけろ

  辛い酒かけるな

  甘酒かけろ

  餅を焼け

  ホーイ  ホーイ

 

 しんしんと雪が降ります。その雪の下で、横手市はかまくら祭りの賑わいです。

                                            おわり

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2006年11月 3日 (金)

かまくら伝説 5

かまくら伝説 5

雪の陣

 雪が降る。昨日も、今日も、しんしんと雪が降り続く。

 義家軍は陣を立て直さなければならない。武将達はバラバラになって、あちこちの農家の納屋などにひそんでいる。道太は連絡係である。戦に嫌気がさした武将には、父の道行が説得に行った。だが義家は、こんな雪の中で、いったいどんな陣を作ろうというのだろうか。

 義家は武将たちに、雪のほこらを作らせた。雪を積み上げて、横から穴を掘り、3,4人が、中に座ったり、横のなったりできるほどの、雪の家を作るのだ。中にわらを敷き、むしろで入り口をふさげば、中は思ったよりも暖かい。道太が雪のほこらで過ごしたことを、父の道行に話したので、道行が思いついたに違いない。雪原にいくつもの雪のほこらを作って、義家軍の陣ができあがった。

 雪の陣が完成した晩、義家は武将たちに、餅と甘酒を配り、遅れの正月を祝った。武将たちは、雪の中から掘りだした石や土などで、ほこらの中にいろりを作っている。そのいろりで餅を焼き、甘酒で暖をとるのだ。武将たちの弓や槍は、ほこらの外の雪にさして、立ててあった。

 道太は、雪の陣の見張りをするようにと命じられた。

 一人の武将が言った。

「見張りの間は歌をうたえ。歌が聞こえている間は、何事もなく見張っているのだと分かる。歌がとぎれたら、何かがおこったのだと分かる。だから、歌をうたえ」

 道太が見回りをはじめると、道行がやってきて声をかけた。

「道太、おまえが傷の手当てを受けたという娘のことだが、娘の霊魂だったかもしれないね」

「霊魂? それはなぜですか」

「生きている娘だとしたら、不思議すぎるじゃないか。ほこらに入るときは、声だけ聞こえて、姿は見えなかったのだろう。周りに家がないのに、温かい芋がゆを運んできたというのもへんだ。それに、ほこらを出たら、なにもかも消えてしまったと言うじゃないか。結局おまえは、ほこらの中でしか娘を見ていないのだ。しかも、本当は見えないほこらだ」

「………」

「霊魂だったのだよ。この前の戦いでは、裏山のふもとまで逃げたものがいて、誰か人影が見えたので、敵かと思って槍で突いたそうだ。ところが、倒れたのは女の子だったらしい。それがおまえの言っている、しずという娘ではないかと思うのだ」

「………」

 道太は石をのみこんだような、重い気持ちになった。そういえば思い当たることばかりだ。雪のほこらのしずと、蛍をつかまえていたしずとでは、まるで別人のようだった。妙に大人びていたし、顔の色も透き通るほど白かったのだ。

 道太は、体中の力が抜けていくような気がした。

「そんなに気を落とすな。戦というものは、まわりの人間を巻き込むこともあるものさ。あまり考えずに、見張りをやりなさい。それが今のおまえの仕事なのだ」

 父は、道太の肩を叩いて雪のほこらに入っていった。

 しきりにのどが渇く。道太は、足下の雪をひとつかみ口の中に押し込んだ。降りしきる雪の中に、ぼんやりと、しずの姿が浮かび上がる。しずのまわりの雪が、あかね色に変わり、赤や黄や紫に変わった。蛍だ! 降る雪がすべて蛍に変わった。

「あは、あははは」

 初めてしずにあったときの明るい声がして、しずが蛍を追っている。

「しず………」

 思わず道太が呼びかけた。

「私はもっと痛かったの。私は治らなかったの」

 という声がして、しずも、蛍も消えてしまった。

 道太は、我に返って、もう一度雪をのみこんだ。なんど雪をのみこんでも、のどの渇きはとれない。道太は初めて、心の底から戦を憎んだ。

 雪のほこらからは、甘酒を酌み交わす武将たちのざわめきが聞こえてくる。道太は、雪のほこらを回り始めた。しずの幻を追い払うように、道太はうたった。

  用心めぐり

  用心めぐり

  寒鍋かけろ

  辛酒かけるな

  甘酒かけろ

  餅あぶれ

  ホーイ ホーイ

 雪は降り続いている。夜は更ける。雪のほこらのざわめきも消え、道太の歌声だけが、いつまでも悲しげに聞こえていた。

                                              つづく  

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