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2006年9月13日 (水)

かまくら伝説

かまくら伝説 2

不思議な少年

 しんしんと雪が降ります。その雪の下で、横手市はかまくら祭りで賑わっています。

 かまくらは、大きな雪のほこらです。雪を積み上げて、中をくりぬいて作った雪の家です。中は、大人が立って入れるほどの高さがあります。真ん中に火鉢を置いて、まわりに3,4人の子どもが座れるくらいの広さがあります。

 かまくら祭りは子どもの祭りです。子どもたちは、かまくらの中で餅を焼き、甘酒を温めるのです。かまくらの奥には、水神様が祭られています。道行人たちは、水神様にお参りし、甘酒をふるまってもらうのです。

 慎くんはお父さんに連れられて、かまくら見物に来ました。子どもたちに声をかけられて、水神様にお参りをしたところです。お父さんが甘酒を飲んでいるうちに、慎くんは外へ出ました。

 雪が激しくなりました。あたりはミルク色の、濃いもやに包まれてしまいました。そのもやの中から浮き出したように、一人の少年が現れました。わらの雪みのを被り、わらのくつを履いています。

「こんばんは。君が慎くんですね。僕のかまくらに来てください」

「え? 僕はいま、お父さんを待っているんだ。だから行けないよ」

「きみは『よんじゃめぐり』の意味を知りたいでしょう? 『かまくら』の意味も知りたいでしょう? だったら、僕にかまくらに来てください」

 それだけ言うと、少年は慎くんの答えも聞かず、くるりと向きを変え、どんどん歩き出しました。慎くんは見えない力に引かれるように、その少年についていきました。少年はずんずん歩きます。慎くんはせっせとついていきました。まわりの景色はミルク色のもやの中です。慎くんには、少年の後ろ姿しか見えません。少年はいくらか片足を引きずっているように見えます。

 しばらく歩いて、少年は急に立ち止まりました。

「これが僕のかまくらだよ」

 少年の指さす方を見ると、ミルク色のもやの中から、かまくらが一つ浮かび上がりました。少年は慎くんをうながして、そのかまくらに入りました。ほかには誰もいません。慎くんが水神様にお参りをすると、少年は甘酒をくれました。その甘酒を飲むと、もやはますます濃くなって、不思議な少年さえも見えなくなりました。

 急に空気が冷たくなったような気がして、慎くんは首をすくめました。ばさりと音がした、大きな雪のかたまりが足もとに落ちました。はっとして見上げると、大きなカシの木が枝を広げています。驚いたことに、慎くんと不思議な少年は、雪原の中の大きなカシの木の下に立っているのでした。

「ここはどこだろう?」

 しんくんがつぶやくと、

「さっきと同じ所さ」

 と、少年が答えました。

「なんで? さっきかまくらに入ったのに・・・」

「かまくらのあった場所さ。ただし900年前のね」

「何だって! 900年も前だって?」

 慎くんは、びっくりして辺りを見まわしました。しかしそこは、ただしんしんと雪が降り続く雪原でした。

「前をよく見てごらん」

 不思議な少年が言いました。慎くんが目をこらすと、何か黒いかたまりが雪原を横切っていきました。なおも目をこらすと、それはよろいかぶとに身をかためた武士でした。濃いもやの中で、影絵のように、左から現れて右に消えていきます。一人の武士が消えると、次の武士が現れます。次の武士が消えると、その次の武士が現れます。みな、弓を持ち、矢を背負っています。中には、馬にまたがる武士もいます。やがて、ひときわ立派な武士が現れました。

「戦争なんだよ。ほら、いまそこを通っているのが源義家(みなもとのよしいえ)さ」

「源義家って誰なの?」

「義家を知らないのかい。それじゃあ源頼朝(みなもとのよりとも)なら知っているだろう?」

「頼朝ならね。鎌倉幕府を開いた人だよね」

「そうそう。義家はね、頼朝のおじいさんのおじいさんさ。そのころ、日本で一番強いと言われた武士なんだ。でもいま戦っている清原家衡(きよはらのいえひら)もすごく強くて、さすがの義家も苦戦しているんだ・・・あ、原島道行(はらしまみちゆき)だ。馬の上で、何か考え事をしている武士がいるだろう。あの武士は作戦を立てるのが上手で、義家の相談相手なんだ」

 しばらくして、誰も現れなくなりました。

「もう終わりらしいね」

「まだだよ、少し遅れて、僕たちくらいの少年が来るはずだ。原島道行の子どもで、道太っていうんだ」

 話しているうちに、眉が太く気の強そうな少年が現れました。子どものくせに、大きな弓まで持っています。

「あれが道太だ。慎くん、君にはあの少年の心の中に入ってもらうよ」

 霧が深く立ちこめて、不思議な少年の姿が消えました。慎くんは、体ごと、道太の心の中に吸い込まれていきました。

                                             つづく

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