« 本のないお話 5 | トップページ | 名月や »

2006年7月10日 (月)

本のないお話 6

楽しいお話を作ろう(前回の続き)

「お話は、これでおしまいです」

 山田先生は、そういって口を閉じました。しばらく、みんなは何も言いませんでした。それから、誰かがつぶやきました。

「みち子は、そのあと、どうなったのかなあ」

「先生、そのあとのお話もしてください」

「その続きを話して下さい」

 みんなが口々に言いました。でも、先生は黙って、窓の外を見ていました。なんだか、泣いているみたいでした。

「分かった。みち子は先生だ」

 正夫が言いました。みんなはびっくりして正夫を見ました。

「だって、先生は山田美智子先生だもの、山梨の伯父さんが迎えに来たんだもの。だって、先生のお母さんは山梨にいるんだもの・・・」

 先生は、何も答えず、ただ遠くを見ていました。先生は、やっぱり泣いているのでした。

 やがて先生は、みんなの方を見て言いました。

「人間は誰でも、自分のお話を持っています。本に書いているお話もあれば、書いてないお話もあります。誰かに聞いて貰えるお話もあれば、誰にも聞いて貰えないお話もあります。たとえば、空襲で逃げ遅れて死んだ人も、自分のお話を持っていたのに、誰にも聞いて貰えませんでした。皆さんも、これから、お話を作りながら生きていくのです。できるだけ楽しいお話を作ってください。何年かあとで、先生と会ったときに、今度は、先生にそのお話をしてください」

 先生の顔は、もう、いつものにこにこした顔に戻っていました。

                                             終わり

|

« 本のないお話 5 | トップページ | 名月や »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/118203/2598553

この記事へのトラックバック一覧です: 本のないお話 6:

« 本のないお話 5 | トップページ | 名月や »