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2006年6月25日 (日)

本のないお話

本のないお話

終業式のあとで

 3年3組の教室はとても賑やかでした。今、終業式が終わったばかりです。終業式では、担任の山田美智子先生が、学校をやめて山梨県へ行ってしまうという話がありました。この学校では、担任の先生はたいてい2年くらい、同じクラスを受け持ちます。だからみんなは、4年生になっても、山田先生が担任になるのだとばかり思っていました。それなのに、終業式で、山田先生が学校を辞めると発表されたのです。

 教室のドアが開いて、山田先生が入ってきました。

「先生、どうして学校をやめるの?」

「何で今までないしょにしていたの?」

 みんなは口々に聞きました。

「今まで黙っていてごめんなさい。言うと寂しくなるので、わざといいませんでした。実は先生のお母さんが、山梨の田舎に住んでいます。そのお母さんが歳をとって、体が弱くなったので、先生が一緒に住むことになったのです。」

 先生が静かに話しました。

「私がみなさんくらいのとき、日本は戦争をしていました。それから戦争が終わって、誰もが苦しい生活をしました。そんな中で、お母さんは苦労をして私を育ててくれました。今度は、私がお母さんの世話をしようと思います。ですから、田舎に行くことにしたのです」

「先生のお母さんは病気なの?」

 和子が聞きました。

「ええ、悪いところもあるようです。先生は学校を辞めますが、みなさんは、今までと同じように元気な4年生になって下さい。でも、辞める話は、それくらいにしましょうね。みんなのことは何時までも忘れませんよ。落ち着いたら、先生がみなさんにお手紙を出します。みなさんもきっとご返事を下さいね」

 みんなは、もっともっと話を聞きたいと思いました。でも、先生はそれ以上話してくれそうもありません。クラス中がシーンとしました。いつもは賑やかな正夫も、なんだか淋しくなってきました。その淋しさがたまらなくなって、わざと大きな声で言いました。

「先生、今日は本を読んでもらう日です」

「あっ、そうだ。お話の日だ」

「本を読んでください」

 ひろしも、次郎もいいました。山田先生は1週に1度、みんなに本を読んでやっていたのです。みんなはそれを、とても楽しみにしていました。

 教室が少しざわざわしてきました。

「そうですね、お話の日ですね。だけど、今日は本を読みません」

 いつもの、少しいたずらっぽい目をして先生がいいました。

「ずるい。お話がなしなんて、ずるいと思います」

 びっくりするほど大きな声で、正夫が言いました。先生はクスリと笑いました。

「本は読まないけれど、お話はします。今日は先生の知っているお話をします。本のないお話です」

 みんなは、お話が聞けると知ってほっとしました。でも、本のないお話って、どんなお話でしょうか。クラス中がまっすぐに先生の方を見ました。先生は静かに話し始めました。それは、つぎのような話でした。

                                               つづく

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